ようこそ学びの世界へ

[社会福祉学科] 大学で「福祉」を学ぶということ

教授 阿部裕二

 社会福祉学科に入学された皆さん,教職員一同,皆さんのご入学を歓迎します。この場を借りて,これから社会福祉学科において学ばれる皆さんへメッセージを送りたいと思います。

◆1 学問としての学び方

⑴ 学習とは

 一般的に,大学は「学問」の場として位置づけられています。まず,この「学問」を「学習」と比較しつつ考えてみましょう。まず,学習は既存の基礎的な知識や問題解決法(技能)を吸収し習得することに重点を置いた学び方です。まさに「学んで習う」(学習)のです。つまり,「既存の」ということでは,すでに存在しているものをそのまま吸収?習得し,しかも相手から習うわけですから,学び手としては受動的な学び方にならざるを得ません。

⑵ 学問とは

 それに対して「学問」は,文字通り「学んで問う」ことです。大学における学ぶ分野は多岐にわたりますが,完全な?絶対的な知識や技術などは存在しません。私たちは絶えずこれらを更新?再構築していく必要があります。つまり,私たちはただ単に既存の知識や技能を受動的に習得する(習う)のではなく,現代の社会?生活において過去?現在の知識や技術が正しいか否か(適合するか否か)を判断する能力が求められているのです。
 そして,さらに何が本当の問題なのかという問題の本質を見極め,その問題への解決法を提示できる本質的問題発見―解決能力を醸成させることが「学問」の内容(実践も含めて)ともいえるでしょう。いずれの場面でも学ぶことは当然澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】なのですが,「学問」には,「学習」とは異なり,さまざまな場面での「問いかけ」が不可欠となります。「何故なんだろう」,「どうしてなんだろう」,「本当なんだろうか」などの「問いかけ」です。自らが「学んで問う」わけですから,受動的な姿勢であっては「問う」ことはできません。
 その意味で,「学問:学んで問う」際には,学び手の主体性が求められているのです。是非,大学ではこの相違を意識しながら学びを深めてください。

◆2 資格の死角

⑴ 社会福祉と資格

 社会福祉関係の資格化が進んでいます。そのなかで,「資格取得(を目指す)=社会福祉について学ぶ(学んだ)」という誤解も一部にあるように感じます。もちろん資格自体を否定しているわけではありません。今回,社会福祉学科に入学された皆さんの中にも,社会福祉士国家試験受験資格や精神保健福祉士国家試験受験資格,そして特別支援学校教諭一種免許状などの取得を希望されている方々もいらっしゃると思います。問題はその「学び方」にあるのです。
 社会福祉という分野は「人間」そのものを対象としますから,複合性が求められています。社会福祉を学ぶことは究極的には人間理解であり,そのために哲学,心理学,そして生活や地域を分析する社会学などの幅広い学びが澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】であると言えます。しかし,幅広く学ぶといっても,単にそれぞれの分野の知識量を増やすことだけを意味しているわけではありません。社会福祉を学ぶことは知識や技術を学ぶだけではなく,その「理念?理想?考え方」を学ぶことであり,知識や技術とりわけ技術は「理念?理想?考え方」を実現させるために必要な手段に過ぎないということに留意すべきです。ただし,ここでいう「理念?理想?考え方」は,現実を無視して空理空論を展開する理想主義者ではなく,個々の現実に「何を守るべきか」という物差しをもつことを言います。つまり,「永遠に変わらないものと常に新しくなっていくもの」的な視点が澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】なのです。

⑵ 「Why, What」の視点

 学問との関係においてもう少し具体的に考えてみましょう。資格取得のための「学び」は,言い換えれば「どうすれば」資格が取得できるかという「Howto」の世界での「学び」を意味するように思えます。世はまさに資格,ライセンスの時代ですし,しかも大学で教える現代の科学そのものが「Howto」を中心に発達してきたわけですから,「Howto」の世界の拡大は当然なのかもしれません。
 しかし,人間のニーズ(必要)は多種多様であり,たとえ同じニーズであってもその状況に応じて,一つとして同じ対応はあり得ません。このような人間そのもの(人間理解)を対象とする「社会福祉」だからこそ,「Why,What」の視点が一層求められてくるのではないでしょうか。「社会福祉とは何か」,「なぜ私たちの社会に社会福祉が存在するのか」,「自立生活とは何か」,「なぜ自立生活が困難なのか」そして,究極的には「人間とは何か」などの視点が,大学での「学び」の基礎に位置づけられると考えています。資格を目指すだけの通信教育部における大学生活は,受験に合格するための学び方に終始し,そこでは上述したように,「学問」の世界では欠かせない「問いかけ」が欠落してしまう危険性があることをよく理解することが澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】です。
 なお,各種資格を取得するためには実習の単位取得が必須条件となります。その際,実習は将来その職業に就くことを真摯に考えている方のみに受講いただくもので,安易な(資格ぐらい取っておくかぐらいの意識)実習登録はご遠慮ください。

◆3 社会福祉の学びと生き方:結びに代えて

 通信教育部での「学び」は「レポート作成による学び」と「スクーリングによる学び」から構成されています(その他に資格取得のための「実習」もあり)。そのなかでレポートは課題が与えられていますから,課題を淡々と機械的にこなしていくだけでは,Why,What(問いかけ)の視点が持てなくなります。とはいえ,レポート作成自体が大変な作業ですから,最初から「このような視点を持ちなさい」といっても無理があります。徐々にその人なりにWhy,What(問いかけ)の視点を意識していけばよいのではと思っています。
 このような視点から人間理解の道を歩んでいくと,社会福祉を学ぶことは,自分自身の問題に突き当たることに気づきます。自分自身はどのように生きたいか,どのような自己実現を図りたいかがどこかで問われるからです。その意味でも,社会福祉を学ぶことは,生涯にわたる「自己実現の模索の旅」への船出を意味しているのかも知れません。皆さんがそれぞれのペースで航海をされ「目標」を達成されることを祈念しております。