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VOL.19 MAY 2004

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[心理学研究法I] レポート作成のためのヒント(その1)

福祉心理学科
中村 修

 これから2回に分けて,心理学研究法Iに取り組む際に参考になる(はず?)ことをまとめていきたいと思います。それでは,ある事例から。

◆桶屋の清兵衛,売上に悩む

 むかしむかし,ある街に清兵衛という桶(おけ)作りの職人がいました。清兵衛は最近のれんわけしてもらい,郷里に帰って自分のお店をもったばかり。お前は腕がいいからと親方にお墨付きをもらい,意気込んで商売を始めましたが…どうもかんばしくありません。あまり儲からないのです。「何で儲からないんだろう?」,ここのところ気も沈みがちです。悩んでばかりいてもしょうがない,なんとか手をうたなくてはいけませんが,さてどこに手をつければいいものか,それも迷いどころです。
 そんなとき清兵衛はふと,「そういや,『風が吹くと桶屋が儲かる』なんていう話があったな。ほんとにそうなのかな」とひらめいてしまいました(話の展開が強引ですが,今しばらくお付き合いください)。
 修行した店(以下,本店)はなかなかの繁盛店でしたので,清兵衛は自分の店のある地域と修行したお店の地域で「風が吹く」ということで違いがあるのかどうか,ということを調べてみることにしました。清兵衛は同じ吹流しを2個作り,一つを本店の弟弟子に渡して「今から3カ月の間,吹流しがきれいにはためいていた(=風の強い)日数を数えてくれ」とお願いしました。もう一つ,「売れ筋の,この大きさの桶が1日に何個売れたか,これも3カ月の間数えてくれ」ともお願いしました。もちろん,自分の店でも同じ吹流しをつけて,同じ大きさの桶の売れた個数を数えてみました。さて,3カ月がたって,どんな結果がでたでしょうか。それはまたの機会があれば……

◆清兵衛がたてた研究計画?

 今の例をもう一度振り返ってみましょう。清兵衛がもった問題意識は,「うちの店は何で儲からないんだろう?」でした。ただ,「何で?」とばかり言っているわけにもいかないので,もう少し考えを進めて「儲かっている桶屋とうちの店は何が違うんだろう? どんな違いがあるんだろう?」と,「原因として考えられるもの」を探してみました。そして,どこかから聞いてきた話から原因として「風」を取り上げて「風が儲けに影響するのでは?」という問いを考え,さらに「風が吹くと儲けが多い?」というように風の影響の方向まではっきりと決めました。
 ここまでで清兵衛が作ったものは,「仮の答えを含んだ問い」です。実はこれが研究の「仮説」になります。この問いをより仮説らしい文章にすると,「風が吹いている日数が多いほうが,売れた個数も多いだろう」となります。風という独立変数が儲けという従属変数に影響するというわけです。仮説に関するちゃんとした説明は,テキストp.149からの「実験法の手順と留意点」の「1 因果図式」と「2 仮説の設定」を参照してください。p.152に書いてありますが,仮説をもつということは実験法という研究法だけに限った話ではなく,研究するうえでの最も基本的な形である「2つの変数の関連」を確かめるときにはどの方法であっても必要になるものです。「何だろう? 何が?」という問いから,要因を絞り,その要因を使った仮の説明を組み立て,実際に確かめてみる,つまり「問いから検証へ」,これが研究の流れなのです。
 さて,それでは仮説を実際に確かめてみるわけですが,清兵衛はここで本店と自分の店を比べる,ということをしています。なんでこんな面倒な手間を踏んだのでしょう。本店だけを調べて,「やっぱり風が強く吹いてるから儲かってるんだ」と結論付けてはいけないのでしょうか。実はダメなのです。自分の店でも本店と同じくらい「風が吹いていた」のならどうでしょう。風が吹いていても儲かったり儲からなかったりしていたのでは,風が儲けに影響するとはいえませんね。「風が吹くと儲かる」が正しいことを確認するためには,「吹いてる—儲かっている」というデータと,その反対の「吹いてない—儲かってない」の両方がそろうことが必要になります。つまり,仮説を確かめるためには,仮説(で示した文章)と正反対のことをしめすデータもそろっていないといけません。だから2つの店で調べるという手間を踏んだのです。

◆心理学研究法Iのポイントは?

 心理学研究法Iの課題を振り返ってみましょう。これら4つの課題では「○○について研究する際の○○法を用いた場合の研究計画を」考えてもらう形になっています。観察法,面接法,質問紙法という3つの研究法について学んでほしいため課題1から3があるのですが,課題4も含めたどの課題の場合でも共通に求められているポイントがあります。それは,「研究する上での基本的な問いをたて,仮説を考える」という作業です。例の中で清兵衛は「何で儲からないんだろう?」という問いから,「風が吹くと儲かるのでは」という仮説をたてました。皆さんにはすでに課題の中で「好き嫌いに影響するのは何だろう?」「攻撃性に影響するテレビ要因って何だろう?」「老年期に適応する条件って何だろう?」という基本的な問いを提示してあります。特に課題2を例にとって話を進めますが,皆さんはそこから,「好き嫌いに影響するのは○○かなあ」という「○○」にあたる要因を絞り,「○○だと好き嫌いが△△になるのでは?」という影響の方向をはっきりとさせた仮説を考えることが必要になります。
 ここで清兵衛の話にもう一度戻ります。清兵衛のお話がなんとなく間抜けにうつるのはなぜでしょうか。「風が吹くと桶屋が儲かる」というどこかから聞いた話にそのまま基づいて研究を進めているから,がその理由かもしれません。「風が吹くと……」というのはもともと落語の世界の「屁理屈」(風が吹くと桶屋がもうかる理屈についてはここでは割愛しますね)なのでしょうが,そうはいっても「屁理屈も理屈のうち」かもしれませんね。みなさんが課題に答える際にも,なんでこの要因を独立変数に選んだのか(=どうしてこの独立変数が従属変数に影響すると考えたのか),その理由を書いてください。それが,何でこの仮説を考えたのか,の答えにもなります。自身の経験,参考にした本に書いてあったことなど,理由にあたるものは考えだした人それぞれにあるはずです。「なんとなくそう思った」,これだけは勘弁してください。もちろん,「何も書かない」もやめてくださいね。
 仮説を考える段階を終えたら,「風が吹く」と「儲かる」のそれぞれをはっきりさせる作業にうつります。つまり測定です。清兵衛は「風が強く吹いている」ことを2箇所で同じ基準で確かめるために「吹流し」を用意しましたし,「儲かる」ということを「同じ商品の売れた個数」から比べようとしていますね。課題2ならば,「○○」と「好き嫌い」を面接法で聞く場合の構造化面接の仕方を考えることになります。そして,「仮説を確かめるためには,どんな人に,何人くらいに,面接すればいいかなあ」という被験者の問題も考えてもらい,研究計画を具体的にしていってもらうことになります。そのあたりの「測定」に関するお話は次回の『With』で行いたいと思います。

◆課題2と3の補足

 以下には,通信教育部よりリクエストのあった,課題2と3に関する補足を簡単にまとめます。
 (1) 課題2について:面接調査には構造化面接,半構造化面接,非構造化面接という3つのやり方があります。当然のことながら,面接調査をする上では「面接で何を聞きだしたいか」ということをはっきりさせておくことが大前提になりますが,この3つのやり方にはどうやって聞き出すかという点で違いがあります。非構造化面接では,「〇〇についてお聞かせください」という基本的な問いのみ被面接者(面接を受ける人)に提示し,後は被面接者に自由に話してもらう(そして面接者は適宜質問をはさむ)という,いわば即興的な面接が行われます。被面接者は何をどういう順番でどのくらい話してもかまわない,というやり方です。一方,構造化面接では,聞きたいことを絞り込んで,質問内容?回答形式(「はいorいいえ」で答えてもらうのか,いくつかの選択項目から選んでもらうのか,自由に語ってもらうのか)を細かく設定し,質問順もはっきりと決め,それを遵守して面接をすすめます。構造化面接と同じく細かく質問を用意するものの,被面接者の語りにあわせて質問順を適宜調整するやり方が半構造化面接となります。非構造化面接では,被面接者に自由に話してもらう分,調査者が事前に思ってもいなかったことも聞きだせるという長所はありますが,逆に人によって情報が得られる部分と得られない部分に差が生じるという欠点もあります。
 (2) 課題3について:「攻撃性については考える必要なし」とは,この課題でみなさんが「攻撃性の高低を調べる尺度?項目」を作る必要はないということです。みなさんは攻撃性に影響を与えると思われる「テレビ要因」に関する質問項目?尺度を考え,質問紙を作ってください。「テレビ要因」といってもいろいろな事柄が考えられますね。先にも書きましたが,この「測定」に関して,そして質問紙の作成については次回の『With』で説明します。

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