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【現場から現場へ】

[OB MESSAGE] ONE FOR ALL, ALL FOR ONE

共同作業所オーク 所長
榎本 歌代子

●プロフィール

 私は昭和46年3月に本学の社会福祉学部を卒業しました。当時は現在のキャンパスからは想像もできないような淋しい(?)キャンパスでした。卒業後は渡辺先生(現在の学部長)のすすめもあり,東洋大学の大学院に進み,修士号を取得しました。29歳で精神科医である夫と結婚,現場に戻ったのは子育てが一段落した40歳過ぎのことです。
 メンタルヘルスのフィールドでソーシャルワーカーとして働きながら,精神医療と福祉との融合の必要性を痛感し,平成8年4月共同作業所を設立しました。
 現在は共同作業所オークの所長をするかたわら,榎本クリニックで精神保健福祉士としても働いています。

●共同作業所オーク

 共同作業所オークは全国的にも数少ないアルコール依存症?薬物依存症から回復した(回復しつつある)人たちが中心の作業所です。
 現在我が国にはアルコール依存症者は約250万人,薬物依存症者も同じくらいいると推定されています。しかし,精神保健福祉の領域で,問題としてクローズアップされてきたのは,最近のことです。こういった問題の解決には,人(仲間)の中で回復していくことが最良の方法であると言われています。
 そのためのひとつの場として,オークは,竹?木?革を使った自主製品作り,喫茶や清掃サービス,様々なイベントへの参加などを通して地域との交流を図りながら,活動を続けています。過去7年間の利用者の推移は図(1),また,現況は図(2)?(4)のようになっています。

図1 年間利用者延人数
I  年間利用者延人数
図2 年代別構成
II 年代別構成
図3 男女比
III 男女比
図4 疾患別構成
IV 疾患別構成

運 営 (1)作業などによる収益金(利用者に還元)
(2)東京都からの補助金(家賃?人件費などの必要経費)
(3)寄付金?借入金  など。
利用者 定員19名
職 員 4名(常勤3名?非常勤1名)

●もの作り

 オークでは日々,「もの作り」が行われています。素材は竹?木?革です。ほとんどの人たちが,それまで経験してこなかった作業です。竹のいさぎよさ,木のぬくもり,革のしなやかさ,それぞれが自らの手でそれを確かめ,語りかけながら形をつくっていきます。思い通りのものができあがった時の満足感,失敗した時の悔しさ,情けなさ,売れた時の喜び……などが交錯し,さまざまな人間模様を描き出しています。
 「ものを作る」ということは,ものを媒体とした自己表現です。そのための「場」の設定と,その営みを支えていくための人と人との関係という無形のものを作る作業の大切さ,時には違和感や対立を生じたりしながら,もうひとつの「つくる」作業にも多くの時間とエネルギーを要します。このような自己表現の活動を通して,「癒し?癒される」相互関係が営まれていくことも事実です。日々の生活の中で,身をもったかかわりを通じた,まさに「共同作業」といえるのです。

●これから……

 アディクション(嗜癖)という言葉をマスコミなどでも見聞きする機会が増えてきています。このような社会の動きや変化に対応すべくオークもその対象を広げてきつつあります。アルコール問題のみならず,薬物問題などを広くアディクションとして捉え,共に回復を考えていく場所でありたいと願っています。


榎本さんの職場「共同作業所オーク」を訪問して

 池袋西口のビル街にある榎本さんの作業所は,ゆったりとしたティールームのような雰囲気。いやしの空間にいるようなやすらぎがある。
 はじめて訪問したときは,私に西口の昔のイメージが強く残っており,その場所に「クリニック」「共同作業所」が存在することの不思議さを感じていた。昔と今のようすが交錯し,どうしても現実のものと思えなかった。
 これまでいくつもの福祉の現場を見てきているが,駅前の,しかもビル街の福祉施設を訪れるのははじめてである。数回訪問し,この立地条件の意味を知ることができた。ここならだれに気がねすることもなく,自然に治療のための通院ができる。仕事帰りに気分転換に行くような感覚で通えるのである。だからいやしの空間にいるようなと思えたのかもしれない。
 もし気が向いたら訪ねてみるのも一案。もしかするとここで精神保健福祉士の実習をすることも可能なのでは。榎本さんも職員さんもきっとあたたかく迎えてくれるし,本学のOBも大勢いる。福祉を学んでいるみなさんに「もっとスローに!!」というような問いかけをしながら応援してくれる。仕事を楽しんで,全身で福祉を表現している彼女の姿をぜひ見てほしい。

(通信教育部  青柳)

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