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VOL.35 MAY 2006

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[福祉心理学科] 福祉心理学を学ぼうとしている方へ

教授
小松 紘

◆心理学の対象

 心理学(psychology)は,その語源から判断しても,「心の学」(ギリシャ語の“こころ”を意味するpsyche +“学”を意味する logos)として一般に受け入れられていますが,では,“こころ”とは何かということになると,それを問題にしようとする人の数だけ意味があるようにも思われるし,あるいは,きわめて簡単な表現で言い表わせるようにも思われます。このように主観的で曖昧な“こころ”は,科学的な用語としては意味が多義すぎるため,言葉としてはいささか味気ない感じがしますが,心理学では「意識 consciousness」という概念が用いられることが一般的です。しかしこの「意識」も主観そのものですから,科学としての心理学では,観察や測定可能な「行動 behavior」をより客観的指標として,意識のあり方を知る手がかりにしてきたわけです。その意味で,「意識」と「行動」は,心理学の目的のひとつである人間理解の澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】な研究対象であるわけです。

◆心理学の2つの領域

 ところで,人間を理解するといっても,大きく2つの立場があります。ひとつは,私たちの日常的な生活の場での理解であり,この例は無数にあります。たとえば私たちの買い物のしかたを見ると,日用品を買う場合のように習慣的な買い方,趣味品を買う場合のように選んで買う選択的な買い方,品物に魅了されてあれこれ考えずに買ってしまう無選択的(あるいは衝動的)買い方,自家用車など高額な品を買う場合のようによく考えて計画的に買う買い方があります。これらの購買行動は日常的によく見られる行動であり,心理学の応用領域,たとえば消費者行動心理学の研究課題でもあるわけです。
 一方この問題は,人間の「欲求 need」として,「行動」を引き起こす「動機づけ motivation」という心理機制(メカニズム)の澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】な説明概念にもなっています。つまり私たちが何か行動をする場合,例えば,食事をするというようなケースでは,血糖値が低下して“おなかがすいた何か食べたい”と思っている状態が「欲求」なわけです。でも大事な会議の最中なので我慢せざるを得ないということがしばしばあります。つまり「欲求」とは生体内の何らかの欠乏や過剰がその原因である<状態>であって,まだ行動には至っていません。
 やっと会議が終わりました。さあ食事に行こうと立ち上がりました。この行動を喚起する直接的な力は「動因 drive」といわれます。でも,食堂はどこにあるのでしょう。つまり「動因」だけでは行動は定まりません。おなかのすいた人々は,食堂に向かって移動し始めます。このときこの‘食堂’は,行動を方向づけるところの「誘因 incentive」となるわけです。食堂で食事を終えたとき,「欲求」も「動因」も解消するわけです。
 上の2つの立場のうち,前者は具体的で,私たちの購買行動の理解に役立ちます。一方後者は,例にあげた人間の生理的均衡(ホメオスタシス)とは別の,派生的,二次的欲求の存在をさらに仮定すると,広く私たちの行動一般を説明することができます。

◆実学としての福祉心理学

 基礎を勉強すると,そこから得た知識を実生活で試してみたくなりますし,応用の分野で仕事をしていると,背景にある心理機制(メカニズム)に関心を持つものです。心理学の応用領域は常に基礎領域による点検が必要であり,基礎領域は,それが人類のみならず地球レベルで,はたして意義ある研究に発展するものなのか,検閲が必要と思われます。基礎と応用は,よく車の両輪にたとえられ,そのバランスの大切さが強調されますが,その車が走る軌道は,人類を含む地球家族にとってよりよい未来に続くものでなければなりません。
 心理学が実証科学である以上,私たちは多くの人が納得できる証拠(エビデンス)を得るために,客観的で,信頼性が高く,正しく対象を捉えられる技法を修得することが求められます。それに加えて,心理学を学ぶ私たちは,学ぶことによって得られるものを,“世のため,人のため,自分のため”に,日日の生活の中で活かしていくことを心がけることが大切であると思います。その意味で心理学は実学であり,「福祉心理学」は“学びと実践”の可能性を探求する,またとない場であるといえるのではないでしょうか。

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