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VOL.35 MAY 2006

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[社会福祉学科] ソーシャルワークとは何か

教授
高橋 誠一

◆ソーシャルワークにエビデンスはあるか

 改めて,「ソーシャルワークとは何か」と聞かれると,正直なところ考え込んでしまいます。こんな頼りない話から始めるとみなさんは不安になるかもしれません。しかし,実のところ,この問いを問い続けることが大切であるように思います。テキストには,それなりの定義がありますが,みなさん自身,私も含めてですが,自分なりにソーシャルワークを考えることが必要のように思います。
 「ソーシャルワーク」は実に曖昧なところが多いことばだと思います。最近は,医療では「エビデンス」(根拠,証拠)が重視されています。検査,診断,治療という手続きを踏まえるだけではなく,根拠に基づいて医療を行わなければならないという考えです。みなさんは社会福祉援助技術の援助過程で,包括的な事前評価,援助計画,介入といった一連の手続きを勉強することになります。では,ソーシャルワークにおけるエビデンスとは何でしょうか。白状すると,これは大変難しい問題で,これについて書かれた本をあまり見たことがありません。

◆反省的実践家のコミュニケーションとは何か

 そこで視点を変えてみましょう。「反省的実践家」としての専門家という考えを提唱したドナルド?ショーンは,医療などのメジャーな専門分野に比べて,ソーシャルワークの分野は「不確実性,独自性,不安定性,そして価値の葛藤」がある分野と考えました。そのような分野での専門性は,実証主義のような一般性の高い根拠に基づくことはできないといいます。なんらかの客観的な基準をもってきて判断することは難しいわけですから,まずは,クライアントとのコミュニケーションが澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】になります。社会福祉の援助技術でもコミュニケーションの澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】性をしっかりと学ぶことになります。しかし,コミュニケーションとは何でしょうか。

◆相手の論理を見極め新鮮な驚きを経験すること

 ショーンは,反省的実践で大切なのは,「相手に理を与えること」だと考えました。「相手の立場に立って考える」ということがよく言われますが,もう一歩進んで,相手の論理を見極めることが反省的実践では欠かせないということです。ソーシャルワークだけでなく,教育も反省的実践が必要となる分野です。ショーンは,こんな例を挙げて説明しています。
 二人の子どもが衝立の両側にいて,一人がもう一人にブロックの組み合わせ方を指示しています。それを見ていた教師が,指示された方がうまくブロックを組み立てられないのを見て,その子どもの能力が低いと決めつけてしまいました。しかし,別の教師は,指示した子どもがちょっと間違えた結果,ブロック全体がうまく組み立てられなかったことに気づいたのです。それを聞いた最初の教師は,指示された子どもは指示通りにできていたことに改めて気づき,驚きました。それまで,その教師は能力が低いと思い込んでいた子どもをどう教育したらいいのかを考えていたのです。
 子どもを教育しなければならないという先入観によって,その教師は大切なことを見過ごしてしまったように思います。だから,自分の見過ごしたことに気づいたとき驚いたのです。この新鮮な驚きが反省的実践にとって大切であるとショーンは言います。自分の理屈で考えていては,このような発見も驚きも生まれてこないわけです。
 教育の例を書いてしまって,ちょっと自分の首を絞めた気もしますが,ソーシャルワークの援助においても同じことがあることを考えていただきたいと思います。あえてエビデンスという言葉にこじつければ,相手にエビデンス,すなわち根拠を見出すというのが反省的実践なのでしょう。また,これが専門家のコミュニケーションでもあるのです。

◆ソーシャルワークはなぜ「ソーシャル(社会的)」なワークか

 もう一つ考えていただきたいことがあります。援助技術には直接援助間接援助の二つがあります。簡単に言ってしまうと,前者はケースワークグループワーク,後者はコミュニティワークということになります。後者は社会的であると思われますが,では個別援助集団援助である前者はどうして社会的なのでしょうか。介護に身体介助だけでなく心理的?精神的援助も含めれば,もうケースワークはソーシャルワークで行う必要がなくなるのでしょうか。あるいは,児童虐待のような問題がケースワークになるのでしょうか。結局,直接,間接というのは技術上の分け方であり,個別や集団であっても社会の問題として見るところにソーシャルワークたるゆえんがあるように思います。ですから,サービスだけではなく対人関係(コミュニケーション)や社会的ネットワークがソーシャルワークでは澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】になるのだと思います。
 入門というよりは,少々突っ込んだ話になりました。屁理屈のように思われるかもしれませんが,是非,自分のソーシャルワークを見出してください。そのお手伝いができればいいと思っております。

参考文献
ドナルド?ショーン著,佐藤 学?秋田喜代美訳『専門家の知恵──反省的実践家は行為しながら考える』ゆるみ出版,2001年

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