【学習サポート】
[児童青年心理学] レポートを添削して
教授
西野 美佐子
◆はじめに
児童青年心理学(4単位)の単位取得には,4つの課題に対して所定の枚数のレポートを提出し合格しなければなりません。この科目は,3年次以降の履修科目であり,発達心理学の各論として位置づけられております。
さて,「児童青年心理学」は心理学の本の題名でも,あまり聞いたことがない名称だな?と思われたことでしょう。実際,皆さんが児童青年心理学の参考書を探すとき,この題名で検索しても1冊の書物は見つけることはむずかしいはずです。なぜなら,児童心理学と青年心理学の2つを操作的に合体した科目名称ですから……。そのような理由で,テキストも2冊配られています。
科目の名称が示すように児童期と青年期を対象としていますので,レポート課題の選定で配慮したことは,3つあります。まず第1は,児童期と青年期からそれぞれ2問出すこと,第2は,その時期の澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】課題に関連する領域から出題すること,そして第3に,その時期の澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】課題であると同時に,「現代的意味」を加味して論じられるような問題とすること,以上3点です。
◆課題が要求すること
課題のレポート作成を通して学んでほしいことは,今年度の科目の課題のところで詳しく説明していますが,要約すると以下のようになります。
課題1では,児童期の発達課題である「勤勉性」を「遊び」と「学び」から論じること,課題2では,疾風怒濤の思春期をとくに性の問題に焦点化して論じること,課題3では,若者文化という青年期独特の創造物としての文化の有様から,その発達的意味と問題を論ずること,そして,課題4では,青年期の発達課題であるアイデンティティの問題(アイデンティティの拡散も含む)を,現代青年の「おとなになること」という視点から論じること,です。
内容がはっきりしているので,基礎的な概念の理解を前提とした上で,必要事項を整理し,今日の日本の児童?青年の実態を踏まえたうえでレポートを作成することになります。そうすると,レポートの中に,自然とそれらを見る自分の視点や意見などが盛り込まれることになります。私のレポート添削の楽しみは,今日の児童青年が成長?発達する中で,環境からの影響をどのように受けながら育っているのかを理解し,課題を論じているかをチュックしながら読むことです。
◆単位をとるためのレポートから,自分の思考の枠組みを作るレポートに
今年からレポート添削に従事して気づいたことを述べてみたいと思います。通信制が開始されてから3年目,3年次からの履修科目ですので,編入生の方も,「待ってました」とばかりに,いかにも急いで提出されたと思われるレポートに出会うと,その意気込みは認めますが,「単位をとる」ってどういうことなのだろうと疑問を抱いてしまいます。その科目を「学習する」ことで,日頃の「子どもを見る目が変わった」「青年の行動に関心を抱くようになった」などの行動変容と結びつかなければ本物ではありません。そこまではいかなくても,レポートは,通信制の学生にとっては,学習のプロセスであり,その時点での学習の成果を示す大切なものです。
話は変わりますが,この地球上の人間の発達過程を考えるとき,児童期(一般的に言うと子ども時代)はどの文化圏でも必ず存在しますが,青年期はそうとは限りません。南米やインドなどの貧しい文化圏のストリートチルドレンは,自分で食い扶持を稼いで家族とは独立して生活し,そのうえ家族に経済的援助をしていたりするので,その意味からいったら立派な「大人」です。ところが,日本のような工業先進国では,一般に進学率が高く高学歴化が進んでおり,子どもと大人の間に長く引き伸ばされた青年期が存在します。このような社会文化的要因が,人間の発達過程の諸相に相違をもたらしているのです。一般的な発達過程(段階)は,どのよう文化圏の研究から生まれてきたかを自覚して,児童期?青年期の課題に取り組んでほしいと思います。
◆基礎的知識の整理と現代社会の中での児童?青年の実態
最近拝見したレポートの中で,面白かった(正しいとは異なる)箇所を書きだしてみました。あなたは,どのように思いますか? 考えてみてください。
- 現代の若者は,「ブランド志向」である。?の人もいるなら
- 依存と自立の関係は,「発達過程としてみると,基礎と応用の関係」である。
- 「コミュニケーション」とは,孤独な心の寂しさからの開放ともいうべきものであり,メールなどの会話が,安心感となり,自己満足を得ることとなるのである。
- 「ニート」(Not in Employment & Educational Training)は,大人社会への反抗と独自の価値や規範をアピールしているものである。
:同感 :そうかな??そうだといいけど?。
◆発展した理論の理解も踏まえること
レポートは紙面が限られておりますので,自分の書きたいことが書ききれないことも多いかと思います。レポートを読む側に立つと,「書かれていないこと」をどのように理解しているかレポートから推測することは難しいことです。
例えば,アイデンティティとは,エリクソンの用語で,「自分が連続性と類似性を持ったものであることを経験し,それに応じた行為をなしうること」といいます。第2の誕生といわれる思春期は,この自我同一性の危機の時期にあたります。この時期,衝動性が増大し,社会から期待される役割変化の中で,役割葛藤を抱き自分を見失う危険にさらされているからです。
マーシャは,エリクソンの理論を発展させてアイデンティティ?ステイタス理論を提唱しました。つまり,アイデンティティが形成されていく状態を,「アイデンティティ達成」「モラトリアム」「フォークロージャー」「アイデンティティ拡散」の4つのステイタスで説明したのです。皆さんのレポートには,モラトリアムとアイデンティティ拡散はよく出てきますが,その他の2つも忘れずに理解しておいてほしいと思います。
◆さいごに──「文は人なり」と言うことわざ
書くことは,“自分”を書き表すことです。複数の文からなるレポートは,レポートを書いている人のものの考え方?感じ方が表現されます。願わくは,自分の体を介した言葉で,“自分”を書き表してほしいです。
もうひとつ些細なお願いですが,字はうまくとは言いませんが,心をこめて書いて欲しいと思います。急いで書いた乱雑な字,升目からはみ出さないように丁寧に書いた字,几帳面さがにじみ出ている字,など,など。通信添削をする教員にとって,やはりその人らしく心をこめて書かれた字は,上手下手ではなく,読みやすく好感がもてます。
最後に老婆心ながら,言わせていただきますと,文はあまり長くなったら,2つの文にしたほうがわかりやすい。述語は忘れる人はいませんが,主語がはっきりしない文に出会う場合がありますので,主語をお忘れなく!