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VOL.20 JUNE 2004

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[心理学研究法I] レポート作成のためのヒント(その2)

福祉心理学科
中村 修

 前回に引き続き,心理学研究法Iに取り組む際のヒントをまとめていきたいと思います。今回は,「測定」にまつわる話です。

◆またしても清兵衛登場

 桶屋の清兵衛はまたまた悩んでいます。前回は,「風が吹くと(桶屋が)儲かるのでは?」と思い,本店と自分の店を比べてみました。すると,3カ月の間両店で風の強さはまったく変わらなかったのですが,売上(同じ種類の大きさの桶が売れた個数)は本店のほうがずっと多かったのです。つまり,風が売上に影響しているのではないという結論に達しました。となると,風ではないとしたら,いったい何なのでしょう。
 そんなある日,修行時代になじみになったお客さんがわざわざ清兵衛の店まで顔を見に来てくれました。清兵衛,思わず悩みをお客さんにこぼしたところ,「おまえさんの店は,なんていうか,『雰囲気が悪い』んだよ」と言われてしまいました。雰囲気? 本店を知っているお客様がそうおっしゃるんだから,そうなのかもしれません。そこで清兵衛,前回と同じく,本店と自分の店を比べてみようと思い立ちましたが,新たなる悩みを抱えてしまいました。「『雰囲気』ってどうやって測ればいいんだ?」。

◆「お店の雰囲気」って何?

 さて,皆さんは,「お店の雰囲気」と言われて,どんなことを思い浮かべるでしょうか? 「きっと清兵衛の店は,日差しが入りづらくて店内が薄暗いのでは?」「従業員同士の仲が悪そうに見えるとか?」「お客さん対応が悪いのかな?」,いろんなことが考えられると思います。
 清兵衛が前回測ろうとしたものは,「風」と「儲け」でした。この2つと「雰囲気」が異なるのは,風と儲けは「量的?物理的現象」であり「実体のあるもの」だということです。しかし,「雰囲気」はどうでしょう。
 ここで,テキストp.110の記述を引用してみます。

 心理学では,人間の行動を理解するために多種多様の構成概念が提案されている。構成概念とは,身長や体重のように,実体があるものではない。したがって,質問紙法によるアプローチによってその概念を取り扱うためには,研究者はその構成概念を明確に定義し,それにもとづいてその概念を測定するための道具(つまり,質問紙)を考案しなければならない。  (下線部は筆者がつけたものです)

 清兵衛が扱いたい「雰囲気」と同じく,心理学の研究の中で測りたいものには物理的に測れないものがたくさんあります。もちろん,心理学研究法Iで皆さんが取り組む課題の中にも,「気の長さ(短さ)」「攻撃性」
「適応」といった構成概念が用いられています。さらに,ここで言っていることは質問紙法に限った話ではありません。下線部は,面接法ならば「面接時の質問項目」,観察法ならば「観察に用いるチェックリスト」と書き換えることができます。

◆構成概念を測定する

 前回も書いたように,仮説をたてて研究をしていく際には,「データの比較」(清兵衛が風と儲けを本店と自分の店を比較したように)が基本になります。それでは清兵衛が前回と同じく,本店と自分の店の両方で,「このお店は雰囲気がいいですか?」という質問をお客さんにしてみる,というやり方をとってみたとしたらどうでしょう。実はこのやり方は,あまり勧められないやり方です。それはなぜでしょうか。
 先に,「皆さんは『雰囲気の悪さ』で何を思いつきますか?」と書いた際,私は「物理的な暗さ」「従業員の仲の悪さ」「客への対応の悪さ」という3つの可能性を示しましたね。実は,答える人がそれぞれ個別の基準で答えるのでは,比較にならないのです。ある人は明るさの面から雰囲気が悪いといい,ある人は対応面から良いというのでは,結果がでた後に清兵衛にとって役立つ情報(雰囲気を変えるために何を変えるか,ということ)はまったく手に入りません。つまり,雰囲気ということで,3つの側面が想定できるのなら,その3側面についてすべて質問しないといけないのです。つまり,雰囲気のような実体のない構成概念を測定するためには,測定の前に構成概念をはっきりと定義し,「どのような基準をクリアすればこの構成概念を示すことになるか」ということを決めないといけません。この作業は,構成概念を具体化する作業と言ってよいでしょう。テキストから具体例を示します。

◆「てれる」を測る

 テキストp.42に,「てれの生起を判定する基準」というものがあります。ここではおよそ2歳の子どもの観察から,「子どもが照れている/照れていない」を見分けようとしています。基準をすべて引用してみます。

 行動として,(1)少し微笑み(はにかみの表情)を見せる。それに続けて,(2)視線をそらし,また,(3)顔や髪や洋服,あるいは他の身体部位をさわろうとする。これら3つの基準をすべて満たしたときにてれの感情が生起していると判定する。

 感情はあくまで個人の中に生じるものなので,観察法を用いる上で,目に見える部分から3つの基準を設定することで具体化しているのです。

◆研究法Iの課題では

 さて,研究法Iの課題の中で特にみなさんを悩ませているのは,課題4の「適応」という構成概念かもしれません。この課題では,老年期における「適応」と「適応に影響する要因(=適応するための条件)」の2つを,観察?面接?質問紙のいずれかの研究法を用いて測定することが求められています。もちろんここまでの話でおわかりかと思いますが,特に適応を測定する上でやってはいけないことは「『あなたは適応していますか?』という項目を一つだけ設定する」ということです。そうではなく,「適応していることを示す基準」を示してそれを項目化しないといけませんね。そこで,「適応している人とは○○な人(もちろん,○○で△△な人,というように複数の場合もあるわけです)」と決め,○○にあたる部分を項目化して測定するわけですが,もちろんこの○○も構成概念ということもあります。例えば,適応している人を「幸福感が高く身体的に健康な人」としても,この「幸福感」「健康」も構成概念なので,さらにそれぞれを測るための具体的な項目作りをしなければなりません。
 次に課題3の「テレビの要因」です。テレビの要因として何をとりあげるか,はもちろん皆さん次第になるわけですが,こんな例を考えてみましょう。テレビ要因として,「暴力的なテレビ番組」をとりあげ,「暴力的なテレビ番組を見ると攻撃的になるだろう」という仮説を考えたとします。そこで,暴力的なテレビ番組を見る,ということを測定していくわけですが,まず一つの問題は,「暴力的なテレビ番組とはどんな番組か」ということです。私は授業の中で「アンパンマンって暴力的だと思わない?」と言って学生を困らせることがよくあるのですが,皆さんはどう思いますか?(だって,すべての問題を「アンパンチ!」で解決するじゃないですか!?)つまり,どんな内容が含まれていると暴力的か,ということをはっきりとさせておかないといけないわけですね。そして,「見る」ということも単純な話ではありません。視聴時間の長さなのか,暴力的な番組だけを見る(他の番組は見ないのに)ということなのか,そうした「見る/見ない」の判定基準も決めないといけません。
 ここで,一つ補足を。みなさんがそれぞれの課題でとりあげる要因は,「これまでにない目新しさをもつもの」や「画期的なもの」である必要はまったくありません! きわめて常識的な,当たり前と思えるようなことでかまわないのです。研究法Iのポイントは,「面接?観察?質問紙という方法でデータを取る」やり方を学習することにあります。例えば課題4ならば,生涯発達心理学のテキストから「老年期の適応」の説明を読み取り,そこにとりあげられている要因をそのまま用いてもよいのです。問題は,「とりあげた要因の関連がちゃんと説明されているか」(前回の『With』で説明したこと)と,「とりあげた要因をどのように測定しようとしているか」(今回の話)ということになるのです。

◆測定項目の作り方

 どの研究法を用いるとしても,これまで書いてきた構成概念の具体化が必要になることはもうおわかりでしょう。その上で,各研究法で気をつけるべきことをまとめていきます。
 観察法では,先の「てれる」の観察にも現れているように,「目に見える行動」だけを観察リストに載せていくということが必要になります。ただし,先の基準には,一箇所だけ不明瞭な部分があります。それは「少し微笑む」というところです。「かなり」と「少し」などの「程度」の測定は観察法では微妙な問題になります。少なくとも観察者の中で一貫して「かなり」と「少し」を判定できるように訓練しなければいけません。
 面接法と質問紙法においては,項目作成の点で実はあまり変わりがないと言ってよいかもしれません。いくつかポイントを整理しておきましょう。
 まず,質問文?質問項目を作成する際には,「一つの質問では一つのことを聞くこと」が大切になります。具体例をあげます。テキストp.122表5-7には,質問紙の項目の例がたくさんのっています(「関心」「満足度」といった構成概念をどう具体化しているか,このページを参考にしてください)。そのなかの「他者の勧め」という箇所を見てください。ここには「中学校の先生に勧められたから」と「親に勧められたから」の2項目が設定されています。これを「中学校の先生や親に勧められたから」とまとめてしまってはいけないでしょうか。そうしてしまうと,「先生には勧められたけど親には……」という生徒は答えづらくなってしまいます。面接法の場合ならば口頭でフォローすることもできるでしょうが,質問紙法の場合,そうもいきませんね。また,「回答者が答えやすい,単純で曖昧さのない文章にすること」も大切なことです。回答者の年代にあわせた表現を用いることも大事なことです。大人がわかる表現でも子どもではわからないということはよくあります。
 また,この表5-7には載っていませんが,項目に答える前の「教示」も大切です。例えば,「生活の中でつらいことが多いほど,抑うつ状態になるだろう」ということを仮説にした研究をするとします。そこで,「生活の中でつらいことがあったかどうか」ということを調べるために,「友人が亡くなった」ということを項目にいれるとしましょう。しかし,それが起きたときが,15年前なのか,それとも2週間前なのかでは,「今の」精神状態への影響は異なると思いませんか?そこで,例えば「ここ3カ月のうちに起きたことをお答えください」(研究者の想定次第でこの期間設定はいくらでも変わります)という教示が必要になるのです。
 最後に,応答の形式について説明します。自由記述形式,賛否形式(「はい」「いいえ」という2つの選択肢で聞くこと),評定尺度法などさまざまな形式がありますが,ここではよく用いられる評定尺度法についてふれます。このやり方は,例えば「まったく違う,やや違う,どちらでもない,ややそうである,かなりそうである」というような5段階から回答を求めるものです(5段階の場合5件法ともいい,7段階の場合は7件法ともいいます)。このやり方は,設定した段階間を一定の等間隔とみなすことで平均値や標準偏差などを求め,多くの統計処理法を用いることができるメリットがあります。ただし,あまり細かく段階を設定するのは現実味がありません(例えば15段階に考えるとしても,そのくらい細かい程度の違いを表現する言葉がありませんしね)。みなさんが考える際には,まずは「はい,いいえ」で答える2件法でいい項目なのか,それとも「程度」まで聞くような項目なのかということをはっきりとさせてください。後者の場合,心理学研究のたいていは,3?7件法で行われています。後はどの程度まではっきりさせればいいのか,という研究の目的の問題です。なお,教示,項目,評定法まで揃った形での質問紙の例は,テキストp.112の表5-1に載っています。

 さて,2回続けて研究法Iのヒントになりそうなことをまとめてきました。前回,今回と共通しているのは,「自分がどんな要因をとりあげてどのような関連を想定するのか,という仮説をはっきりとさせ,その要因をどのような項目で測定するのかをはっきりとさせる」ということです。なので,我々教員がレポートをチェックするポイントは,「要因の絞り方,要因の関連の明示(仮説),要因を測定するための明確化(項目作成)がすべて一貫しているか,その人のレポートの中での筋が一本はっきりと通っているか」ということになります。こちらをにやっとさせるレポートを(さて,「にやっと」とはどのような状態でしょう?)をお待ちしています。

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