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VOL.24 DECEMBER 2004

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思想史のなかの臨床心理学 講談社選書メチエ

 心理学はいろんなことを教えてくれるけど,(1)ひとつひとつの知識がバラバラで,どう関連しているのかわからない,(2)「こころとは何か」というような大きな問題には答えてくれない,といった感想をもったことはありませんか?
 本書は,心理学の代表的な理論がどういう背景からつくられてきたのかを歴史的に振り返るものです。本書の著者は臨床心理学者ですが,上記のような疑問を感じている方にはおもしろく読めると思います。内容の一端を紹介します。
 心理学は「哲学」から分かれてできた学問ですが,「哲学」から離れようとするために「科学的にこころを扱う」ことが強調されます。その点から心理学について,次のようなことが言えるのではないかと著者は主張します。
 (1) 哲学が扱ってきた「意識が何で,どのようにできているのかとの問い」にはあまり答えようとしていない(p.22)。
 (2) 「科学的」というのも「特定の哲学的立場」にすぎないのに「哲学と縁を切ったと思っている」。そして,その立場への傾倒と「反省のなさ」があわさって,「一種の宗教的信念」が形成されている(p.11)。
 心理学は上記(2)の無批判な科学信仰がみられる点で,臨床心理学は下記(3)の治療者のカリスマ化?学派への分裂状況のために,哲学?科学?宗教のなかで「宗教に近い面がある」と著者は述べています。また,患者を癒すためには宗教性が必要とも述べています(p.211,230)。今後の心理学は哲学性?科学性?宗教性のどれを深めていこうとするのでしょうか。
 なお,(1)に関連する意識?無意識をめぐる議論についての歴史的考察は本書にくわしく述べられていますが,「心理学概論」1単位めレポート課題とも関連していますね。

 また,「臨床心理学」についての著者の主張は次のようなものです。
 (1) 意識されない世界のひとつを「無意識」と名付けて,こころの病気の場合「無意識」が悪さをしていると考える。そして,こころの病気を治療する場合,「無意識」をことばにして「意識」に出してやることが必要である(p.160など=無意識に注目するが,実は意識?言語重視)。
 (2) 患者のこれまでの「物語」をことばによってつくりなおす,ということが必要といわれるが,これは「治療者と患者が共同製作した物語」,あるいは「治療者の誘導と患者がわの同調が反映した物語」といえるのではないか(p.214)。
 (3) フロイト?ユングなど臨床心理学の草創期から,治療者はカリスマ化しやすく,意見の違いから学派がつくられ,自分が絶対という立場を支持してくれる「とりまき」をもたないと主流を占めることはできない(p.122)。
 (1)について,箱庭療法や森田療法などことばを重視しない療法もありますが,カウンセリングなど主要な心理療法はことば重視の立場なのでしょうか。(2)についても実際の臨床現場を知らない私には,どの程度まで当てはまるのかわかりません。(3)については,臨床心理学に限った話しではなく,法律学などでもよく聞きます。ただ,患者が治った?治らないが,治療者や行った療法によって左右されることがあるために,臨床心理学ではそうなりやすい面をもつのかもしれません。
 冒頭にあげたような疑問は心理学の成立の経緯からそうなりやすい,ということが本書から読み取れます。ただし,これからの心理学がどういう方向へ向かうのかは,学者のなかにもいろいろな模索があります。
 さまざまな学問が「どういう立場?見方で人間やものごとをとらえようとしているのか」という点を意識化することは非常に大切だと私は思います。本書はその助けとなる点でお薦めするものです。

(Pon)

■實川幹朗著 『思想史のなかの臨床心理学』 講談社選書メチエ311,2004年 定価1575円

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