VOL.15 DECEMBER 2003 【学習サポート】
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【学習サポート】[心理学キーワード] 動物からヒトを学ぶ助教授 人間の特徴を考える場合に,ほかの動物たちと比較しながら検討してゆくという方法があります。そのような比較の中で,思いもよらない発想が生まれてくることもあるのです。今回は,そのうちの一つを紹介したいと思います。 ●就巣性と離巣性 ポルトマンは,哺乳類を,その子どもの成長の様子から「就巣性(留巣性)」生物と「離巣性」生物という2つのカテゴリーに分類し,それぞれの特徴を指摘しました。動物には,たとえばネズミのように「生まれたときには未熟であり,自力で移動できるようになるまでにしばらく時間がかかる動物」と,たとえばウマのように「生まれた数時間の後には,親とともに歩ける動物」がいます。この違いが,(1)妊娠期間,(2)子どもがどれくらい成熟した状態で生まれてくるか,(3)一度に生まれる子どもの数,という3つの特徴の組み合わせによって分類されるというのです。 ●ヒトはどちら? では一体,ヒトはどちらに分類されるのでしょうか? 妊娠期間と子どもの数については間違いなく離巣性と言えるでしょう。するとサルと同様,離巣性の生物のように思えます。しかし,生まれたばかりのヒトの赤ん坊は成熟していると言えるのでしょうか? ヒトが本当の意味で離巣性であれば「体型がおとなと同様で,ヒト特有の直立が可能であり,コミュニケーションの手段としてある程度の言語や身振り語をそなえているくらい成熟していなければならないはずだ」とポルトマンは述べています。すると,「ヒトは離巣性生物のくせに,未熟な状態で生まれてくる」といも考えられるわけです。 ●だから「生理的早産」もしも人間の妊娠期間が21カ月くらいであったなら……子どもは生まれたとたんに二本足で立ち上がり,コミュニケーションにも困らない状態で生まれてくるかもしれません。それが離巣性生物としての本来の姿と考えたのでしょう。しかし,現実には9カ月ほどで生まれてきます。だとすれば,ヒトは全員生まれてくるのが早すぎる,つまり「早産である」ということになります。このようにあたりまえになってしまった,ヒトの誕生における早産のことを,ポルトマンは「生理的早産」と表現しています。このようなポルトマンの考えには,確かに多くの疑問も指摘されています。例えば,そもそも就巣性と離巣性という2分割で考えて良いのかという疑問もあります。また,ヒトの新生児も外見ほど能力のない状態で生まれてくるのではなく,かなり高度な運動や感覚の能力を有するということも近年明らかになっており,ヒトの子どもが本当に未熟な状態で生まれてくると考えていいのか,という疑問も出てくるのです。 ●だから子育ては面白い!?しかし,それでもヒトの親子関係について多くのことを考えさせてくれると思います。本当はおなかの中にいてもよかったはずの時期に外界に生活することになったら……? 本来なら受けなくてもよいようなさまざまな刺激を,周囲(環境)から受けなければなりません。いや,「刺激をうけることができる」と表現したほうがいいでしょう! そして,どのような刺激を周囲が準備してあげるか,が澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】だということもわかっていただけるのではないでしょうか。 この時期,子どもとどうつきあうか? これは大きな課題です。今後,多くの学問に触れながら,子育てについてご自分の価値観を持っていただけたらと思います。一つ言えることは,ある程度未熟な状態で生まれてくるからこそ,子どもはあらゆる可能性を持ったすばらしい存在であり,外界からの刺激を積極的に受け,そして学ぶことによって発達していくということです。子どもの発達に影響を与える豊かな文化をどう創っていくのか,それが課題のような気がします。 なお,動物の行動については興味深い研究がたくさんなされています。温かみと安心感という視点から,アカゲザルを使って針金製と布製の母親を比較したハーローの実験,動物の本能について,離巣性の鳥類にみられる「刷り込み」という現象を紹介したコンラート?ローレンツの研究,また,タンザニアの森でチンパンジーの生態を長年にわたって続けているジェーン?グドールの報告など,どれも興味深いものばかりです。日本ではチンパンジーのアイちゃんも見逃せないところですので,興味のある方は情報を集めてみてはいかがでしょうか。人間のあり方についても思わぬ発見があるかもしれません。
引用文献 |