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VOL.11 JULY 2003

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最後の家族 幻冬舎文庫

 村上龍著,引きこもりで家族に暴力をふるう大学生の兄を中心とする4人家族の物語。テレビドラマにもなったそうですが,私は今年4月に文庫化されたものを読みました。引きこもりの兄と,不況で会社を解雇されてしまう父親,息子の引きこもりを何とかしようと精神科医や親の会を訪ね歩き心理学の勉強を始める母親,「やりたいことはやっていい」と芯の強さをもつ妹の四者四様のモノローグで小説が進んでいきます。
 同じ場面でも家族が考えることはひとりひとり少しずつ違うという構成から,バラバラな家族を描いた小説かと思って読んでいました。しかし,文庫版p.301まで読み進めたところで,村上龍氏が,この小説で言いたかったことは次の一節ではないか,と思いました。
 (誰かを)「救いたいという思いは,案外簡単に暴力につながります。
??それは,相手を対等な人間として見ていないからです。対等な人間関係には,救いたいというような欲求はありません。……ぼくが救わなければいけない。……そういう風に思うのは,他人を支配したいという欲求があるからなんです。そういう欲求がですね,ぼくがいなければ生きていけないくせに,あいつのあの態度はなんだ,という風に変わるのは時間の問題なんですよ。他人を救いたいという欲求と,支配したいという欲求は,実は同じです。そういう欲求を持つ人は,その人自身も深く傷ついている場合が多いんです」(p.301-302)。
 「おかあさんは,どうやってあなたを救ったんでしょうか」……「おかあさんは,あなたのためにいろいろな人と話すうちに,自立したんじゃないでしょうか。親しい人の自立は,その近くにいる人を救うんです。一人で生きていけるようになること。それだけが,誰か親しい人を結果的に救うんです」(p.303;……は中略)。
 支援を必要としている人に手をさしのべることを否定しているわけではない,と思います。また,誰かに喜ばれることをして自分もHAPPYになる関係を全否定しているわけでもない,と思います。しかし,「あとがき」に書かれている,「誰かを救うことで自分も救われる,というような常識がこの社会に蔓延しているが,その弊害は大きい」という一文の意味をかみしめることは必要かもしれません。援助者が自立していない場合は,援助者も非援助者も救われないということでしょうか。そうすると,「自立」とは何かも大きなテーマになってきますね。
 小説は家族ひとりひとりがそれぞれの決意を胸に新しい生活を始めるところで終わっています。自分が決意したことに向けて努力する過程で「自立」は達成できるという暗示でしょうか。
 同じく村上龍氏の『希望の国のエクソダス』(文春文庫)も,不登校中学生たちが主人公でとてもおもしろいです。

(Pon)

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