【現場から現場へ】
OB MESSAGE [精神保健福祉援助実習]
精神保健福祉援助実習から学んだこと
通信教育部社会福祉学科卒業生 根木地勢津子
私は看護師歴十数年,精神科病院に勤務し4年ほどになる看護師です。実習先は,以前レポートをまとめるにあたり協力いただいた相談支援事業を行う自立生活支援センターを希望し,先方が承諾してくださったので開始することができました。また実習指導者の方の計らいで,様々な生活ニーズを把握するために,三障がい混合の就労継続支援B型事業所,精神障がいのみの同施設を1週間ずつ実習計画に組み込んでいただきました。
日常的に精神科患者さんと接し,看護実習の経験もあった私は,精神保健福祉援助実習に対しては特に不安もなく,体調管理にさえ留意していればスムーズに終了できるだろうとむしろ油断していました。しかし,実際は長年無意識に培ったパターナリズムが,大学で学んだ知識やそれを実践とリンクさせる実習において大きな障壁となり,発想の転換まで時間がかかりました。
例えば,アルコール性疾患にて入退院を繰り返していた50代男性のAさんのケース。彼は「お金がないから働きたい」とのニーズを抱えていましたが,生活保護の受給額より賃金が安く,本人のニーズは就労だけでは満たされない可能性がありました。また,施設では他の利用者にタバコやコーヒーを要求するなど,苦情が出始めていました。お金がないと言うものの,Aさんの金銭の遣い方に問題があるので,それを改善することが澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】なのではないかと私は思いました。そして他人への嗜好品要求を継続していると人間関係が破綻し,結果的にAさんの不利益となります。それなのに,なぜ施設は金銭管理をしないのか疑問でした。
実習指導者からは,「『言い過ぎると当事者の足が遠のく』ので訴えに対しては傾聴に努めている」「利用者はどこにも行けなくて,どこでも話せなくてここに来ている。悩みを解決するのではなく話を聞く。だから指導はしない」との助言をいただきました。現にスタッフは,自身の意見を押し付けるのではなく,違う角度からの捉え方を利用者に提案することで,利用者自身が気づき,そして行動変容できるよう,動機付けへのアプローチを重視していました。
実習指導者から「利用者が年金を『小遣い』って言うのはおかしいと思わない?」と言われましたが,私には何がおかしいのか分かりませんでした。「生活費である年金を小遣いと言い,大半の人は自分がもらっている額を知らないし,年金を自己管理していない。だからお金の価値がわからない」と聞かされたことで,彼らが金銭感覚に乏しく,正しい金銭管理ができない誘因を知りました。
これまで,勤めてきた病院では,地域移行における利用者の失敗が再発のリスクや周囲からの偏見を高める可能性があると考え,利用者が失敗しないよう管理や指導を強化してきました。しかし実習で,巡回指導の先生から「失敗から学ぶことが多いのに,精神障がい者は長期間病院で守られ,苦労しなさ過ぎたとも言える」との助言を受け,彼らの自立にとって必要なのは社会経験であり苦労であり,そして最もおそれていた失敗もまた澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】であることを学びました。以前は「病院では規則正しい生活ができているのに,なぜ退院すると崩れるのか」が疑問でした。しかしそれこそが,彼らの力を奪っていたのです。
現場実習を通して,今まで病院において「彼らのために」と当然のように行ってきたことがまったく当たり前ではなかったこと,自分がいかにノーマルという感覚が鈍っていたかを思い知りました。そして,実習中に保健師より「鬼が金棒を背負って帰るようなものですね」と言われましたが,私はむしろ「孫悟空が金の輪を頭につけてもらった」と感謝しています。
当事者と対等の関係で自立生活支援がなされなければならないのに,私は人権侵害の温床となりやすい現場で10年以上勤務しています。私は無意識に当事者との間に上下関係を形成しやすい傾向にあるので,それをつねに認識し,当事者主体の支援をしていきたいと思います。
最後に,大学の諸先生方をはじめ,多くの方々の尽力のおかげで無事精神保健福祉援助実習を終了し卒業することができました。ありがとうございました。
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