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VOL.52 JUNE 2008

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[BOOK GUIDE] 『精神病棟の二十年』 新潮文庫

 精神保健福祉を学ぶと,精神障害者のかかえる「生活のしづらさ」というキーワードによく出会います。松本昭夫『精神病棟の二十年』は,著者自身の統合失調症の発病のきっかけから,入退院の繰り返し,就退職の繰り返しの人生を描き,精神障害者のかかえる「生活のしづらさ」が肌で感じられる一冊です。
 「あとがき」で,「せっかく快癒しても,退院と同時に,苛酷な社会へ直接放り出され,周囲の情勢に対応出来ずに,またたくまに再発,再入院というケースは非常に多い。これでは悪循環を繰り返すばかり」と書かれていますが,まさにその「悪循環」が松本氏の21歳の発病からの20年のようです。そして,その「悪循環」をなくすのが精神保健福祉士の大切な役割ではないかと感じさせられます。
 本書では,昭和30年?40年代の何もしてくれない「医師の数に比して,患者の数があまりに多い」精神病院の実態から,次第にケースワーカーさんが登場したり電気ショック療法がなくなったりという精神病院がよくなっていく様子も読み取ることができます。「退院と同時に就職が決まるのでなければ,退院させない」と言い張る母との関係や,その母もその後家族会に参加し精神病に理解を深めていく様子なども書かれています。薬を飲まないとどうなるか,といったことや幻聴や妄想,被害妄想という病気の症状も実感できます。松本氏の考え方に違和感を感じる部分もあると思いますが,体験学習や実習に行くとごく普通にこういった「生活のしづらさ」をかかえている統合失調症の方と話をすることになります。その理解に役立つ一冊と思います。
 本書の続編『精神病棟に生きて』は松本氏がより理論的に自身の病気の半生を振り返った本です。いろいろな知識が得られます。
 その他,帚木蓬生(ははきぎほうせい)という作家による『閉鎖病棟』も小説ですが精神障害者やかつての精神病院を理解する一助になります。また,以前このコーナーでとりあげましたが,春日武彦『援助者必携 はじめての精神科』は精神障害者と接する際のマニュアルとして役立ちます。実習に行く方は買っておいて損のない本です。

(Pon)

■松本昭夫『精神病棟の二十年』新潮文庫,2001年 定価420円
■松本昭夫『精神病棟に生きて』新潮文庫,2004年 品切(古本屋にあり)
■帚木蓬生『閉鎖病棟』新潮文庫,1997年 定価580円
■春日武彦『援助者必携 はじめての精神科』医学書院,2004年 定価1,890円

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