【通信制大学院コーナー】
平成15年度通信制大学院修了者からのメッセージ
論文を書くことについて ?後に卒業する人たちへ
社会福祉学専攻 熊谷 和史
論文を書き上げる10日前,私は地獄を味わった。ある程度,早くレポート課題や単位修得試験をこなしていたため,論文は年末にはある程度できるだろうと予定は立てていた。しかし,論証が不足しているところ,資料の追加,差し替え,誤字脱字,表現上の手直し,全体への配慮,いわゆる隙間を埋めていく作業が膨大であり,かついつまでたっても終わらない……。締め切りの4日前までは本当に見通しが立たずに,提出を諦めかけたことも再三だった。そうした中で,妻の一言が最後の力になった。「来年やっても今よりも良い論文が書けるとは限らないし,締め切りに向けて書き上げることが大事」といったようなことを言われ,肩の力が抜け,延々と続けていた推敲にピリオドを打つことが出来た。論文を書き上げ,製本をして,終わった時の気持ちは,「やったー」ではなく,「これで本当に終わったのだろうか……」だった。
しかし,論文を書くという行為は,大学院に入ったのが大きな契機になったことには疑いはない。指導してくださった先生から,私の論考の甘さを指摘されながら,また父や妻から一般の読者としての率直な意見や批判は,自分の思考を深めてくれた。このスタンスは,レポート課題のときから一貫していた。妻が読んでもわからないものは提出しない。父が読んで疑問に思ったものは,まだ整理されていない。
後に卒業する人たちに私がアドバイスできるとしたら,身近に論文を読んでもらう人が1人でもいれば,勇気を持って読んでもらうこと。そして,指導してくださる先生にどんどんと見てもらうこと。しばしば,論文を作成していると,独りよがりになりがちだし,読んでもらっているにもかかわらず,批判されたりして嫌な気持ちになり,億劫になることもあるが,なにより自分のためと思って,頑張ってほしい。また,どこにピリオドをつけるか。これも書かないことには終わらないわけで,そして,書いたものの,どこに着陸させるのかも非常に大事だと痛感。それぞれに終わり方があるので,一概には言えないが,上述のとおり,締め切りはバカにできない大きな力があることを知った。
蛇足ながら,レポート課題と論文作成は密接につながっていた。論文に使えるような課題を選んで書くことは,論考に厚みを与えてくれるし,レポートの積み重ねは,書く能力を引き上げてくれた。また,論文に直接関係ないレポートでも,先生とのやりとりや文献へのアプローチなどから間接的に思考を深めてくれた。
そして,最後は自分の力を信じて,持てる限りの力を振り絞って書き上げる勇気と気力を大学院で論文を書くという行為を通じて知ることができたこと。そうした機会を得たことは喜びに尽きない。ありがとうございました。