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VOL.17 MARCH 2004

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[OB MESSAGE] 「ながら勉強」の勧め

医療法人わらべ会 稲庭クリニック介護支援センター管理者
今高 直樹

●1 私の流れ

 私は平成4年3月に卒業後,千葉県旭市にある海上寮療養所(精神科)にPSWとして5年間勤務。そこで知り合った医師との御縁で秋田市の稲庭クリニック(精神科)に移り早いもので今年で8年目に入る。秋田に来た当初は精神科デイケアの立ち上げに関わり担当させていただいてきたが,平成12年4月から介護保険制度が施行されることに伴い居宅介護支援事業所の立ち上げに携わり,以後ケアマネ業務に専念して今日に至っている。当クリニックでは介護保険対象の通所リハビリテーション(旧老人デイケア)を1日40名の定員で開院当初から実施してきており,ケアプラン作成の必要にせまられケアマネが必要だったわけである。
 大学4年の時なぜか社会病理学のゼミに入り卒論のテーマが「我が国における老人の自殺に関する一考察」であった。しかし論文を書いているうちになぜか精神病理に関心が移行していき気がついてみたら精神病院に就職が決まっていたというような流れである。たまたまの縁で第2の就職先が秋田県。高齢者の自殺率ワーストワン。PSWとして秋田に来たはずが自分の意図に反して結局高齢者の在宅福祉に関わっている現実を思うと何か宿命的な流れを感じている。

●2 葛藤について

 徘徊,興奮,抵抗,拒否……。これらの精神症状を呈する痴呆症の高齢者を抱えた家族が当クリニックの門を叩くことが多い。現実場面はテレビのCMに流れてくるようなお互い笑顔で風船バレーに興じている平和なものではない。ケアすらさせてくれない場合が多いのである。このような場合精神科薬を投与せざるを得ない状況になる。しかし精神科薬の副作用でパーキンソン症状が出やすい方もおり,そうなると傾眠が目立ったり,歩行困難になったり転倒の危険性が高まることとなる。いわゆるADLの低下である。投薬により精神症状が緩和されることに伴い家族の精神的ストレスも軽減されるが,その代償として今度は身体的な介護の必要性が高まり,家族の身体的な疲労へと問題がシフトする。当然家族は医師に相談し精神科薬は減量されることとなるが,しだいに精神症状が再燃してきてADLも向上しまた家族が相談に訪れるというサイクルになる。このように精神症状をとるか,身体症状をとるかといった何とも答えの出ない葛藤状況を日々繰り返しているのが介護の現場であるとも言える。
 ケアマネの姿勢としては,この家族が陥っている葛藤状況を理解しつつ,家族の葛藤をいわば同伴者として抱えていくことが理想であろう。どうしてやることもできないといった無力感にとらわれて,あせって代わりに答えを出そうとしないことである。どんなに困らせられて嘆いている家族も,対象となっている高齢者に対してはアンビバレンツ(両価的)な感情を秘めているからである。

●3 インテーク面接

 たいがい人は病気になると普段意識していなかった身体の一部が異物化し,異常を感じて医師の前に現れる。当クリニックには痴呆症の高齢者が多く紹介されてくる。その多くが「自分はどこも悪くはない」と思っておりほぼ強制的に家族に連れてこられる。外来診察のインテーク面接も任される私はこの面接をどう開始するか常に試行錯誤している状況にある。自分は正常だと思っている本人と,困りきって何とかしてもらいたい家族との間に挟まれ,大きなズレを意識しつつ対応をせまられる。出会った時からすでに抵抗感が存在していること,その抵抗感を扱うところから面接を進めていかなければならない。機械的な面接になってしまってはいけないと思う。
 「ながら勉強(テレビを見ながらの勉強等)」はいけないと幼少期に親からよく注意を受けたものである。しかし皮肉なことに対人援助技術の臨床の基本となるものは「ながら面接」であると思っている。(親への反発であろうか?)サリバンの言うところの「関与しながらの観察」という言葉が示す通り,本人や家族が語る内容そのものの理解,その背景にある感情の理解,面接者に投げかけてくる感情の理解,面接者自身に生じる感情への気付き,それらを総合して問題を理解しつつ,インテーク面接の場合はカルテに速記して医師にストーリーとして見立てを報告しなければないない。これがかなり骨の折れる作業である。

●4 ケアマネに問われているもの

 ケアマネの試験に合格してから実施される実務研修の場で,県の担当者が開口一番「ケアマネに最も問われる能力は事務処理能力だ」と言い放ったのを聞いて腹が立ってどうしようもなかったことが忘れられない。利用者と事務的な関わりができればそれで良いとでも言うのか?と妄想的になっていた。しかし3年間もケアマネをやっていると抱える利用者の数がやたらと増え,アセスメントのまとめや,ケアプランの作成等に伴うデスクワークを迅速に処理できないと,利用者や家族とゆっくり面接もしていられないという現実に直面し,今では県の担当者が言った言葉が何気に理解できるようになってしまった。だから今ではいかに短い時間で深いところまで理解し気持ちに触れることができるような面接に仕立てられるかが自分の課題であると思っている。
 とにかく一方に片寄ることなく,事務処理能力を高めながら短時間面接能力も高めていくというのが理想であろう。日々「ながら勉強」の連続である。通信教育で資格を取得しようともがいている皆さんこそ,「働きならの勉強」をこなしているのであり,今後この「ながら体験」が臨床の面接場面で対象者を理解する技術として生かされていくことを期待している。

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