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【現場から現場へ】

[INTERVIEW] 精神障害者地域生活支援センターのしごと

(話し手)足立区衛生部(足立保健所) 精神障害者地域生活支援センター
高橋 暢行
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 精神保健福祉士の資格と仕事については,『With』1号【現場から現場へ】で遠藤克子先生よりご紹介いただきましたが,今回は資格をもって実際に精神障害者地域生活支援センターで仕事をされている高橋暢行さんにお話しをお伺いしました。なお,高橋さんは現在本学通信制大学院の1期生として,仕事と研究活動の両立を果たしておられます。

Q.精神障害者地域生活支援センターは,どんなことをしている施設ですか。

 精神に障害をもった方々が,精神病院を出て,地域のなかで暮らすことができるように,さまざまな応援をするための施設です。精神障害者からの電話や面接で相談にのったり,生活のしづらさを解消するために,食事サービス,洗濯や憩いの場の提供など日常生活の支援をしたりするのが主たる業務です。また,区内関係機関との連携体制の確立も澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】な業務になっています。
 平成7(1995)年の「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」制定を受けてでき始めた施設で,東京都でもまだ33箇所しかありません。今後,東京都では50箇所を目標に増やしていく方向です。足立区は平成10(1998)年に社会福祉協議会に委託する形ででき,現在は区立直営として保健所の一課として業務を行っています。

Q.対象者はどのような方ですか。

 私の所属する東京都足立区の精神障害者地域生活支援センターでは,地域で暮らしていて生活支援を必要としている約250名の精神障害者が登録をされておられます。3割はひとりぐらしをしておられ,残りの方は家族と同居です。グループホームなどで生活する方は250名のうち10名ほどでごくわずかです。グループホームはまだまだ数が足りないと思っています。
 経済的には,障害年金と家族からの援助,または生活保護で生活をしている方が大半です。就労によって得た給料と障害年金と合わせて経済的な自立を達成しておられる方は250人のうち10人程度です。年齢は18歳から60歳台までさまざまで平均年齢は38歳,とくに30,40歳台が多くなっています。
 精神障害の類型では,いままでは統合失調症(精神分裂病)が主でしたが,最近は非定型精神障害(定型的な統合失調症や躁うつ病とは異なる障害),境界性人格障害(激しい怒りや空虚感などの感情の不安定さや行動パターンが問題となる障害)など障害が多様化してきています。コミュニケーションの仕方,返ってくる反応などが統合失調症とは異なるところが多く,適切な対応のためには新しい知識の獲得が必要です。

Q.具体的には高橋さんの仕事内容には,どんなものがありますか。

 大きく分けて,4つの仕事があります。
 一番大きな仕事は相談業務です。相談の95%は精神障害者本人からのものです。相談内容で最も多いのが,人間関係に関する相談です。ご家族や作業所での人間関係についての相談を多く寄せられています。また,病院や薬についてなど医療情報を教えてくださいとか,借金返済などのお金に関する相談も増えています。他に何も用事がないのに電話をしてくる「用件のない電話」もあり最初は戸惑いを感じましたが,よく考えてみると寂しい気持ちをまぎらわすために,話してホッとできる相手を求めてかけてくるのではないか,と理解できるようになりました。夕食後のひとりポツンとする時間に多くかかってきます。
 2つめは,生活支援業務です。まず最初に食事のことですが,足立区のセンターでは,週3回,定食屋方式で何種類かの小皿に盛った料理を自分で選んで買えるようにしています。私は,できる限り自分で選択できることが澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】と思います。また,センター内には,乾燥機付きの全自動洗濯機があり,無料で貸し出しています。しかし,使用法がわからない人が多く,その説明から入ります。洗濯機というハードだけでなく,説明というソフトでワンセットと感じています。また,日中の居場所の提供も大きな業務になってきています。
 なお,障害者のご自宅の訪問はあまり多くなく,むしろ関係機関に訪問依頼することが増えています。
 3つめは,関係機関との連携業務です。病院や精神科クリニックなどの医療機関,保健所,福祉事務所,小規模作業所,グループホームなどと連携体制を築き,精神障害者の新たな社会参加に役立てています。
 4つめは,精神障害者に対する理解を深めてもらうために講座や講習会をもったり,施設の近隣の方に施設を理解していただくための業務があります。

Q.センターでは,就労支援のセクションもあるようですが。

 就労支援は,併設の通所授産施設や区内の小規模作業所などと連携して,一般就労への応援をしています。しかし,授産施設の定員は20名と少ないものです。また,就労する際に精神障害者であることを隠して入る人が多いため適切な配慮が得られず,人間関係が原因でやめていく人が多く,かといって精神障害者であることを公表してはなかなか雇ってくれない現実があり,一般就労と定着への道はなかなか難しいものがあります。

Q.身分や勤務の形態を教えてください。

 私は区の職員で,公務員です。大学で心理学を学び,福祉職として採用されました。最初は身体障害関係専門の相談を行っていましたが,平成元(1988)年から精神障害者関連の仕事についています。
 私の勤務する地域生活支援センターは,お正月休みを除いて年間のうち359日は開館しています。常勤3人,非常勤3人の6人と併設の授産施設や作業所などの職員と共同で,朝9時から夜8時30分まで2交代制で勤務しています。

Q.大学で心理学を学んでいかがでしたか。

 今にしてみれば広く,浅くではありましたが,感覚?知覚心理学から社会心理学,臨床や発達心理学まで心理学全体を学んだことは,現在の仕事に多少なりとも役立っているのではないかと思います。社会心理学で学んだ集団についての知識が,福祉のグループワークにつながったりしますし。
 また,臨床心理学で学んだカウンセリングの知識も,今の仕事に直接役立っていると感じます。

Q.精神保健福祉士として活躍するには公務員になる必要があるのでしょうか。

 そんなことはありません。地域生活支援センターをはじめ「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」50条に定められた社会復帰施設は,市や区の直営だけでなく,社会福祉法人や医療法人がもっていることも多いです。また,最近法の枠内で認められた「小規模通所授産施設」は任意団体が法人格を得て行うこともできます。
 「小規模通所授産施設」や「小規模作業所」は軽作業を行うだけでなく,障害者が地域で暮らすための生活支援に関する斬新な取り組みをしていて,やりがいがありそうです。最近増えてきた精神科クリニック(ベッドをもっておらず入院施設はない診療所)でも精神保健福祉士は活躍しています。「医療」の視点で障害者を「患者」として見るだけでなく,「保健」や「福祉」の視点を交えて,「市民」としての精神障害者の「生活のしづらさ」を少しでもやわらげるようにしていきたい,と思っています。

Q.精神障害者の方々の相談にのるというのは,何かとても難しいことのような気がするのですが……。

 そうですね。私も最初は目の前の対処におわれ,無我夢中でした。
 例えば時折,繰り返しご説明しても,なかなか理解していただけない場合があります。その場合,何度でも根気よく説明するように心がけています。以前にこの仕事の先輩から「この仕事は5年が1年だ」と言われたことがあります。
 根気が必要な仕事なのかもしれません。

Q.精神保健福祉士を目指される方に何かメッセージをいただけないでしょうか。

 精神病院に「社会的入院」を余儀なくされていた精神障害者が地域で町でいっしょに暮らせるために,今後,地域では,精神障害者が抱える多様で複合した課題を解決していかなければなりません。一例をあげれば,ケアマネージメント(調整,斡旋業務)なども新しい支援技法として澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】さを増すと思います。
 現在,精神障害者が利用できる社会資源がどんどん増えており,その際職員の配置要件として精神保健福祉士をおく必要を定めるなどで,求人も増えてくると思います。現在「名称独占」であって「業務独占」ではない資格ですが,今後より重視される方向にあると思います。

Q.最後にしごとと大学院での学習?研究との両立について,どんな工夫をされておられますか。

 小さな時間をできる限りこまめに使うようにしています。例えば,通勤の電車の中は貴重な時間です。
 また,職場の同僚に通信制の大学院で学んでいることを伝えています。私の職場は,土曜,日曜も勤務があるため,スクーリングと勤務が重なる時が昨年2回ありました。その時,同僚が勤務を変わってくれたので助かりました。
 できる限り,職場の理解を得ておくことが,大切と感じました。

 非常に具体的にお話しいただき,ありがとうございました。

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