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通信教育部 教授
寺下 明
すき焼きは考えてみると面白い食べ物かもしれません。フランスの哲学者はすき焼きのことを「ひとが煮るにつれて費消されることを本質とし,したがって<繰り返される>ことを本質とする料理」と定義しています。そして,すき焼きは食べ始めの合図があるだけで,食べ始めると「これという明確な瞬間も場所も,もはや存在しない。<すき焼き>はとだえることのないテキストのように,中心をもたないものとなる」(ロラン?バルト『表徴の帝国』ちくま学芸文庫)と記しています。
本学の通信教育課程も開学して1年経ちました。始めの合図はあったと思います。教科書を読み,レポートを書き,試験を受け,この繰り返しで単位を修得していきます。しかし,学習が始まると「いつでもどこでも」と言われるように,これという明確な瞬間も場所もなくなります。何か中心になるようなものを定めないと,ついつい自分に甘くなったり,計画倒れになったりしてしまいます。気をつけないといけません。そんななかで,スクーリングは大きなメリハリになります。昨年の夏スクーリングを受講した学生から,さまざまな先生や学友たちとの出会いによって,学ぶことの楽しさを味わったと聞いております。日本独自のスクーリングは,すき焼き鍋の肉といったところでしょうか。元気と勇気を与えてくれます。教員や学友と触れ合い,「同じ釜(鍋)の飯(肉)を食う」ことで,孤独感?迷い?挫折を克服することもできます。やはり,刺激は大切で必要です。2年次からは,ITを活用した「遠隔授業」(会場配信)が始まる予定です。今後は日常の学習がよりエキサイティングなものになっていくことでしょう。
ところで,かのフランスの哲学者は,生の材料が食卓に運ばれ,それを料理しながら次々に食べるすき焼きに感心しています。生の材料という点では,通信教育で学ぶ皆さんは事欠かないはずです。社会人としてのフィールドをお持ちでしょうから。よく,レポートの書き方がわからない。何をどのように書いたらいいのかという質問を受けることがあります。余裕がないと,どうしても教科書や参考書に書いてあることを丸写しして提出しがちです。レポートでは,課題を解決するためにまず,自分で考え,工夫することが求められます。日ごろ問題意識として抱えている事柄や気づいたこと,感じたことなどを教科書?参考書の記述と突き合わせながら課題に沿ってレポートを作成していただきたいものであります。知識は実際に方向づけや目的を与えてはじめて役に立ちます。評価の欄に「現実との関連づけ」という項目があるのはそういうことを考慮してのことです。
ルールがあってないような鍋料理の仕上げもいろいろあるようです。通信教育がいかに多様化し通学制とボーダレス化してきたとはいえ,目下のところ最後の仕上げは科目修了試験となっています。試験の出題範囲は広く,テキストだけを読んでいても万全というわけにもいきません。何冊かの参考図書にも目を通しておくことが必要でしょう。レポートや試験で自信をもって書いたのに「不可」「再提出」の評価を受け,絶望しているという声をよく聞きます。通信教育のコツですが,成績にこだわってはいけないということです。どうもわたしたちは,長年の教育で評価され比較されることに慣れてしまっているのではないでしょうか。「成し遂げた」諸先輩の言によれば,ひたすら学習を前に進めることだそうです。科目数が多く,試験前の勉強は苦しくて大変です。しかし,試験があるから知識が蓄積され,知の再編に向かって力がつくのだと信じています。鍋物は何を入れても最後がまた美味しく仕上がります。食材を吟味して食するのもまた人生の楽しみでしょうか。
そうは言っても,通信教育で単位を取ることの困難をいまさらながら感じ始めた皆さんに,アメリカの中学校の先生が自分の教える生徒たちに流したというメールを紹介します。世界を100人の村に縮小するとどうなるかという話です(『世界がもし100人の村だったら』マガジンハウス)。その村には「57人のアジア人,21人のヨーロッパ人,14人の南北アメリカ人,8人のアフリカ人がいます。70人が有色人種で,30人が白人。70人がキリスト教以外の人で,30人がキリスト教」と始まって次のように続きます。「6人が全世界の富の59%を所有し,その6人ともがアメリカ国籍。80人は標準以下の居住環境に住み,50人は栄養失調に苦しみ,1人が瀕死の状態にあり,1人はいま,生まれようとしています」。
さらに「1人(そうたった1人)は大学教育を受け,そしてたった1人だけがコンピューターを所有しています」と続きます。そのうえで,「自分と違う人を理解すること,そのための教育がいかに必要か」を説いています。この縮図の数字の根拠は明確に示されていません。しかし,こうして考えてみることの澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】さがよくわかります。世界一豊かな国で学ぶことの意義はとてつもなく大きいことに気づかされます。
わたしたちの日本は,教育と学習の機会が,すべての人びとに開かれた「ユニバーサル?パティペーション」社会と言われています。始めたばかりの通信教育です。杓子定規に考えずにマイペースでフレキシブルに学びましょう。儒教のバイブルといわれる『論語』をひもとくと,その冒頭は次のように始まっています。「学んで時にこれを習う,また説しからずや」。孔子は,学問を修めることは難しい道ではあるが,その間には楽しい時もあるということを伝えたかったのだと思います。