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[福祉心理学] レポートを書くに当たっての「福祉心理学」の考え方
助教授
渡部 純夫
●1 過去における福祉と福祉心理学の考え方
過去における福祉の思想は,弱者救済という大命題のもと,いかに平等な生活を保証するかに目的のすべてがあったと言っても過言ではない。それが,社会の変化にともなってその領域の拡大がはかられていくことになる。 家族をはじめ,医療や精神保健の領域も福祉はカヴァーするようになったのである。福祉心理学も当然のことながら,福祉に関する時代の流れや考え方に影響を受けることになる。
当初は福祉という限定された領域において役立つ応用心理学のひとつとして「福祉心理学」を考えればよかったのであるが,社会の変化は,「福祉心理学」に対し,社会のあらゆる場において役に立つ「心理学」を求めるようになってきた。そのため,生活の中に根付くための新しい「福祉心理学」が渇望されるようになったのである。
「福祉心理学」は,その意味で人間の生活に役立つと思われるあらゆる学問や経験からもたらされる知見を,とりこまなければいけない宿命をもたらされたことになる。「心理学」の分野に限ってみても,臨床の場で悩みや不適応の問題に対応するためには,臨床心理学の知見が必要になってくる。関わり方や分析方法,各種心理療法に精通していることも大事になる。子どもの発達や,教育,しつけなどの問題には,発達心理学や教育心理学,家族療法などの知見が必要になってくる。また,社会情勢の問題として,リストラに対する自殺の予防や生き方,自己実現の問題に関して,産業心理学や社会心理学,カウンセリング等の学問の活用が必要になる。しかもそれらは,単独でクライエントに関与できるものではない以上,何らかの統合のもと,新しい創造されたものとして提供していかなければならないものでもある。「福祉心理学」には,人間尊重の観点と,統合の課題が絶えず付きまとうことになる。
●2 人間尊重の観点
人は,個性を持った存在としての生き方を求める権利を有していると考えることができる。存在していることにその価値を見出すことができるのである。例えば,お年寄りのすごさがどこにあるかを考えてみると,何もしないところに価値があると言わざるを得ない。そこにいるだけで存在の大きさを知らしめることができるのは,長年の経験の中で生と死を見つめつづける姿勢に裏づけされたお年寄りではのことである。生の意味を深く知っているが故に,その短い一言にも深みを感じることができるのである。かつてオリンピックのバルセロナ(スペイン)大会で金メダルを取った岩崎恭子さんが,「今まで生きてきた中で最高の出来事です」といったニュアンスの発言をしたことがある。これを,80代のお年寄りの一人がしたときと比較してみれば,その重みの違いに愕然とすることだろう。Well-beingという考え方がある。いま言われている「生活の質」(QOL)を支える概念である。「福祉心理学」は,現在この「生活の質」を充実させ援助することができる学問として期待されているのである。
そのためには,心理学で言うところの「自我」についての理解が必要になってくる。自我は個(individual)によって,存在を支えられていると考えることができる。個の存在が明確になるためには,他と切り離されることによってであり,自分の外を客観視することができるということが前提条件となる。ここに自然科学的発想に立った西洋の自我の考え方が見てとれる。つまり,統合とは反対の性格をおびた自然科学的考えのもと,絶対化が進めば進むほど,Well-beingから遠ざかることになってしまうのである。
●3 統合
では,統合とは何を意味し,なぜ「福祉心理学」に必要なものなのであろうか。統合とは,ただ単純に2つのものを組み合わせることを意味してはいない。そこでは,新たなものを生み出す創造のプロセスが澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】なのである。
デカルトは,2つのものを切断するという考えによって(物と心のように),客観的見方の手法を提示することに成功した。この考え方は自然科学を発展させる大きな原動力になった。人間社会に物質的幸福を提供する大きな貢献をしたことになる。しかし,それは反面では「こころ」あるいは「たましい」というものの存在を消すことにも手を貸すことになったのである。人間は「こころ」も身体も含んだ全存在として生きているはずである。人間の全存在に対して開かれた態度で接していくところに,変化や成長が生まれてくる。物質的幸福が必要ないというのではない。科学的思考は欠かせないながらも,統合という観点を常に持ち合わせていないと,個としての存在が根底から脅かされることになりかねない。「福祉心理学」は,一人一人に幸せを提供するための実践的学問である。そのためにも,「人間尊重の精神」と統合を通しての「創造」への考え方を抜きにしては考えられないのである。
レポートを書くにあたっては,このことを根底に置きながら自分なりの論を展開していただきたいと考えている。人を幸せにすることに貢献することは,そんなに簡単なことではないはずである。しっかりとした自分なりの考えに基づいて,深く悩みながら新たなものを創造しようとするもがきの中にヒントを見つけることができると思われるのである。皆さんの健闘を期待するものである。