【学習サポート】
[教員MESSAGE] 心理学実験I
心理学の学びの道に立たれた皆様へ
講師 大関 信隆
1．心理学を支える2本の柱
「心理学とはどんな学問ですか？」と聞かれたら，私なら「人間の行動を説明する学問です」とお答えします。対人援助の学という視点で考えても，「現象に対する説明可能性」があるからこそ援助が成り立つからです。ですが，人間の行動を説明できる学問は心理の専売特許ではありません。生物学などは身体の構造や機能から人間の行動を説明できますし，社会学であれば社会構造から人間の動きを考えてゆけます。
そのような中，心理学は私たちの脳が作り出している「心?精神機能」という材料を使って人間行動を説明しようとしています。ここで一つの難しい問題に直面します。私たちが説明に用いようとする「心?精神機能」は，確かにそこに存在してはいるのですが，でも直接見たり触ったり，測ったりすることができない対象なのです。すでに心理学概論などを学ばれた方であれば，「心理学は科学である」という考え方に触れたかと思います。心理学は人文社会系の学問領域に位置づけられながら，自然科学系の学問に近い科学的な手法で人間行動にアプローチしようとする学問です。それなのに，その中で使おうとしている「心?精神機能」というものを捉える方法が曖昧であれば，他の領域から「心理学は科学などではない」と一蹴されてしまいます。
そこで心理学は，心という対象にどのように接近してゆけばよいのか，その方法について学ぶことに多くの時間を費やし，またそれによって身に付く「ものの考え方」を心理学の非常に澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】な力の一つに位置づけています。この「対象に対して接近する方法」についての知を「方法論」と呼びます。心理学の学習過程は，人間の心理世界に関する知識の体系を学習する「総論?各論」という柱，そして先ほどお話しした心に対する接近方法を学習する「方法論」という柱の2つで成り立っています。この「方法論」の授業が，本学では「心理学実験」や「心理学研究法」という授業に相当します。
「方法論」の授業は総論や各論よりも面倒で，地味で，一見すると実用性のない，面白味に欠ける授業のように映るかも知れませんが，決してそのようなことはありません。方法論，つまり接近の方法やものの考え方について十分なトレーニングを受けておけば，仮に初めて出会う事柄であっても，概ね自前で，程々に妥当な結論を導き出すことができるようになります。知識の集積はものを考える際にまず必要な要件ですが，現場ではそれらを使って，しかしそれまで読んだことのある本には書いていないような事例に対応していくことが実際には多いのです。そんな時に，この方法論で培った「ものの考え方」が役に立つのです。
知識と方法論，この2つの柱をバランス良く学んでください。
2．心理学実験のレポートを書くにあたって
心理学科で恐らく最初に経験するであろう大きなスクーリングの一つが「心理学実験」です。このスクーリングは複数の心理実験を毎日こなしながらレポートを作成していく授業なのですが，皆さんレポート作成で結構苦戦しています。心理学実験のレポートを書く場合，普段書き慣れているレポートとその様式やルールが全く異なっていることに注意してください。
心理学実験で作成するレポートは科学実験に関する報告書であり，どのようなコンセプトの元，どのような手段を用いて，どのような情報（結果）を得て，そこからどのような解釈をしたのか，ということを「データ」や「事実」に即して順序よく書いていくことが求められます。これは結果の客観性や妥当性を担保するために避けられないことで，言わば心理学における流儀のようなものです。最初は馴染み難いかもしれませんが，次第にその意義が理解できるようになります。
レポートは「心理学を学んではいるが，この実験についてはよく知らない人」が，レポートの最初から読み進めて，それ程行きつ戻りつしないで最後まで読んでいけるような明確性を意識して書くと良いでしょう。もし何を書いて良いのか解らなくなったときは，最初に戻って「そもそもこの研究の目的は何か」「この実験セットを用いたのは何故か」「得られたデータの意味は何か」をジックリと考えてください。数字に対して拒否反応をしないことも澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】です。数字というのは，私たちの主観的な解釈に妥当性を与えてくれる，心理学にとって非常に澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】なツールなのです。
3．その他，レポートを書くにあたって
レポート作成上の澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】点は多岐に渡りますが，敢えて1つ申し上げるなら，レポートを書く行為を「自分のための知識集作り」と位置づけていただけると有り難いです。この先，何かものを考えるにあたって参考にできるような，読み返して「そういえばこんな考え方があったな」と振り返えることができるような内容を目指して書いてください。
そのためには，参照した本の中に既に書いてある文章を集めてレポートの形を整えることに加えて，あれこれと考えを巡らせながら，ご自身の考え方を紙面で戦わせていただくことで，レポートが自分にとってさらに面白くなります。そのためにも，多くの情報を自分で集めてみてください。
皆さんにとって，図書館は最大の情報源です。最近では手軽にWebで情報収集することが可能になりましたが，ぜひ図書館にも足を運んで，ジックリ本と向き合う時間を作ってみてください。図書館が難しい場合は大きめの本屋さんでも結構です。探しに行った本の隣に置いてあった本が，実は非常に面白くそちらの方を読んでしまった，などということがよくあります。アナログでの情報収集は，このような「出くわしの知」があるのです。一見寄り道のようなこの方法が，実は私たちの知識のネットワークをより深く，豊かに絡み合わせる方法だったりもします。そして，それが大学での学びの一つの形でもあるのです。
 
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