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VOL.34 MARCH 2006

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『子どものリアリティ 学校のバーチャリティ』
岩波書店

 2004年6月,佐世保の小学校で起きた同級生を殺害するという事件。審判の過程で行われる精神鑑定では,加害者の異常性(「解離傾向」にあるなど)で事件を「説明」しようとします。しかし,本書の筆者である発達心理学者?浜田氏は次のような考えから本書を著しています。
 「いくつもの媒体を経て,伝え伝えて私たちのもとにたどりついた物語には,すでにそれにふさわしく,いくつもの尾ひれがまとわりついている。その尾ひれを取り去るのは容易ではない。いや,どれが尾ひれなのかを見定めることさえままならない。……できるはずがないと知ったうえで,なお私たちは事件を,その当人が生きたかたちのまま見る努力を重ねなければならない」。
 「現実の事件は,……人どうしの偶発的なやりとりとその揺らぎのなかで事が始まり,やがて思いがけなくも重大な結末をもたらしてしまうという事件の方が,むしろ一般的でさえある」。
 このような視点を私も持ちたいと思い,本書を読んでみました。残虐な事件の加害者だからという目をもって見ると,「女児の性格の異常さ」という「説明」には納得してしまうが,もし事件前に同じ鑑定をしたら果たして同じ結果が出たのか,という指摘は的確なような気がします。
 筆者は,この事件を「加害者の女児がミニバスケットボールチームを辞めさせられて退屈だった」「クラスでいさかいが頻発していたが担任の先生は介入しなかった」「女の子グループ間でメンバーの取り合いがあったが,女児はどのグループにも招き入れられないということがあった」などのようなことから説明していこうとしています。もちろん,なぜそれが殺人という重大な結果を招いてしまったのかはわからないままに。そして,学校が子どもたちにとって今どんな場なのかを「学校という場の嘘」のような章題のもと解明していきます。
 安易な事件の解釈や人間理解はダメなんだよと教えられる一冊でした。

(Pon)

■浜田寿美男『子どものリアリティ 学校のバーチャリティ』岩波書店 2006年,定価2,100円

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