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【BOOK GUIDE】

日本外交のアイデンティティ 南窓社

講師
生田目 学文

 本書は国際関係学シリーズの第8巻。開国以来150年,他国との外交関係を通じて私たち日本人の自己規定,自分たちは何ものであるかと認識しているか,それがどう変化してきたか,しなかったのか,というアイデンティティの問題を分析したものである。著者はそれぞれの専門分野の視点から様々な事象について検討を加えている。以下に各章のタイトルを紹介する。

  1. 長谷川雄一 「日米関係における『ペリー』の記憶」
  2. 伊藤 信哉 「戦争賠償と日本の世論」
  3. 稲田 十一 「ODA政策にみる戦後日本外交の『規範』」
  4. 我部 政明 「米軍事基地と沖縄」
  5. 宮坂 直史 「『戦略文化』と戦後日本のテロ対策」
  6. 池田 十吾 「戦後日米関係における日本外交のアイデンティティ」
  7. 興梠 一郎 「戦後日中関係」
  8. 生田目学文「戦後日本における安全保障政策とアイデンティティ」

 私が担当した第8章では,戦後安全保障政策に対する日本人の認識について論じている。日本人の安全保障に対する考え方の変遷は二つのアイデンティティの対立から生み出されてきたものであった。その両者の「根底には,日本の安全を確保し,私たちの生活を守らなくてはならないという明らかな共通認識が存在する。その共通認識から生ずる問題,すなわち,この私たちの,日本の安全を確保するためにわれわれはいったい何をどうすべきか,という問題が二つのアイデンティティの根本的な相違となっているのである(p.242)」。ひとつは軍事力やそれを支える経済力といった物質的な要素(たとえば日米安保体制)を重視する「現実主義アイデンティティ」であり,もうひとつが社会的な規範や価値という観念的な要素(たとえば平和憲法)を重視する「平和主義アイデンティティ」であった。
 2001年9月に起きた米国同時多発テロ以後,アメリカによるアフガン攻撃,イラク戦争と国際状況はめまぐるしく変化している。大量破壊兵器保有の疑惑があるイラクに対し,武力行使を急ぐ米?英対国連による査察継続を求める仏?独?中の対立がある中,日米同盟という現実主義アイデンティティと国際協調という平和主義アイデンティティとの狭間で日本はまたしても苦慮することとなった。拉致問題やミサイル?核開発疑惑等で北朝鮮への脅威認識も急速に高まっている。世論調査等にも明らかなように,イラクへの自衛隊派遣をはじめ安全保障問題に対する人々の関心も高い。この問題を考える上で,読者の一助となれば幸いである。

■長谷川雄一編『日本外交のアイデンティティ』(国際関係学叢書8) 南窓社 2004年1月発行 定価3600円+税

日本外交のアイデンティティ

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