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【学習サポート】

[臨床心理学] レポートへの取り組みについて

助教授
佐々木 千鶴子

●面白さとの出会い

 昨年大ヒットした新書に養老孟司氏の『バカの壁』がありました。私は立ち読みですませてしまいましたが,これは,著者のネームバリューと本のタイトルとの絶妙な組み合わせによるヒットでしょう。「買ってみよう」と思った人たちの多くは,おそらく「バカ」というのは自分以外の誰か(あるいは何か)のことをイメージしながら買ったのではないかと推測しています。「自分はバカだからその正体を功名な養老先生が教えてくれるかもしれない」と思って買った人は,少数派ではないでしょうか。買い求めた人たちに尋ねてみたいところです。

●とりあえず本を読もう

 居酒屋へ行くと,「とりあえず,ビール!」という方も多いと思います。ビールは大人の味の代表のひとつですが,大学での学びでは「とりあえず,関連テーマの文献!」とでも言えるかもしれません。借りた本に書き込みをするわけには行きませんが,付箋紙を張り付け,要点をノートやカードに書き写し,あるいは,一部分コピーをとる,関連文献の一覧表を作るなどなど,こうした作業が必要となります。しかし,この手間暇を惜しんでは学ぶ面白さと出合うことはできません。
 レポートを書くためには約束事も身につけなければなりません。なんだかめんどうな話ですが,やっているうちにしだいに慣れてきます。わけのわからなかった抽象概念とのつきあい方もしだいに身についてきます。
 面白さと出合うために,ここは省エネできない部分です。一見,役にたつ保障のないことに人生の大事な時間とお金を費やすには勇気が要ります。しかし,高齢になってからも有意義に使える健全な楽しみ方を身に付けると思えば,エネルギーの注ぎがいもあるというものでしょう。わからなかったことが,あるとき「ぽっ」と小さな花が咲くように理解できる時があります。そのとき脳内に達成感を伝えてくれる物質が走ります。運動も体を動かしはじめてから15分くらいたたないと,爽快感が出てこないのと同じで,レポートを書くための作業も,取り組んでしばらくは面白くはならないのです。

●脳の話より面白い虫の話?

 後日『バカの壁』をテーマにしたテレビのドキュメントを見ました。そのときはそのときで「ほほう」と感心して見ていたはずですが,私は元々虫好きの養老氏に関心があったので,虫取りに興じる「孟司少年」の姿が一番強く印象に残りました。ちなみに養老氏の著作よりも,彼を含めた虫好き三人の座談会を本にした『三人寄れば虫の知恵』(洋泉社,1996)が,あまり売れていた様子はありませんが,非常に面白かったです。
 さて,『バカの壁』に話を戻しますが,番組では先入観や思い込みが「バカの壁」になる,と言っていたようです。臨床心理学のある立場では,その先入観のある面を「自我防衛機制」という概念で説明しています。使われている言葉は違いますが,そこに共通する何かを見つけるのも一興です。さらに「どうして養老氏の本は虫の話の方が面白いと感じるのだろう」と疑問を感じ,あれこれと考えていくと,面白さは増々広がります。

●先入観という「バカの壁」

 レポート課題に取り組まないのは,そこにある意味「バカの壁」があるからかもしれません。「課題が難しい」「興味のない課題だ」「関連図書が手に入らない」「時間が作れない」などなどを理由にレポートが遅々として進まなかったり,あるいはテキストまるごと書き写し作戦を遂行したり。
 今一度,皆さんはご自分がどんなことを前提としてレポート課題に取り組んでいるか振り返ってみてください。そこには根拠のない「思い込み」が潜んではいませんか。もしかしたら,そこにあなたがレポートに取り組めない理由,1冊のテキストからほとんど丸写しのレポートを書いてしまう「謎」を解く鍵が眠っているかもしれません。
 その謎を解くことにしろ,レポート課題に取り組むにしろ,とにかく「やってみたい」と思ってチャレンジしたのであれば,そのときの気持ちを忘れずに,続ける努力を惜しまないでください。続けてこそ「やってみたいこと」が「できること」に変化し,面白くなってくるのだと思います。どうしても続かないときは,もう一度入学の動機を自問自答してみてはいかがでしょうか。

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