2021/07/15 同窓会 PR課

OB山下高文さんが携わる東日本大震災遺児作文集「お空から、ちゃんと見ててね。」出版

卒業生であしなが育英会職員の山下高文さん(2011年度社会福祉学科卒)が携わった東日本大震災遺児作文集「お空から、ちゃんと見ててね。」の出版にあたり、寄稿をいただきました。岩手県陸前高田市で、親と死別した多くの子どもたちをサポートしてきた山下さん。書籍の冒頭には、山下さんの経験と思いが綴られています。

出版に携わった山下さん(本人提供)
私は現在「一般財団法人あしなが育英会」で、親との死別を経験した子どもたちをサポートする業務(グリーフサポート)を行っています。
あしなが育英会は東日本大震災から10年の機に、東日本大震災遺児作文集『お空から、ちゃんと見ててね。』を発刊しました。作文集には、震災から間もない時期に当時小学生が書いたものや、震災から10年が経ち20歳前後となった方々へのインタビューなどが収録されています。

私が今の仕事の道を選んだのは、大学時代の経験が大きく影響しています。高校生のとき、ガンを患い闘病の末亡くなった父と、認知症の影響で別人のように変わっていく祖母の姿を見て「将来、人の役に立つ仕事ができたらいいな」と思い、澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】に入学しました。社会福祉援助技術演習では三浦剛先生、演習では赤塚俊治先生、大倉峰雄先生の下で学び、講義の内容や経験の1つひとつがとても魅力的なものでした。真面目とは言えない学生だったので、先生方には苦労を掛けてしまっていたように思います。

大学4年を目前とした2011年3月11日に東日本大震災が発生。サークルの友人たちと、大学の食堂や互いの住んでいるアパートを利用し、避難生活を送りました。あしなが育英会(当時は民間団体)から奨学金を受けていた私は、大学2年次に団体を通じて、死別を経験した子どもに寄り添うための講座(ファシリテーター養成講座)を受講。活動を行うなかで、大学4年次は東日本大震災で親と死別した子どもたちをサポートするプログラム(グリーフサポートプログラム)にボランティアとして参加していました。このことがきっかけで、大学を卒業した2012年4月にあしなが育英会の職員となりました。
私は、東日本大震災で親との死別を経験した多くの子どもたちとそのご家族に出会いました。「震災で親を亡くした」という事実は同じかもしれないですが、亡くなった人にどのような気持ちを抱いているのか、死別の経験がどのような影響を与えているのか、どのような歩みをしているのかは、1人ひとり異なっていました。それは、同じ家族内であっても様々でした。

震災から約1年後に出会った当時未就学児だった男の子は、亡くなった父親について「わからない」「知らない」を繰り返していました。そこから数年、小学校4、5年生になると「覚えていない」「記憶がない」と涙を目に浮かべながら教えてくれるようになりました。幼かった彼が成長に伴い、「人が亡くなる」という意味を理解し、父を亡くしたことを実感するようになって、戸惑いや不安、寂しさなど、さまざまな感情を抱きつつ葛藤しているようでした。

震災から10年が経って今もなお「親と過ごしたときの記憶がない」「どんな声をしていたか忘れてしまった」「卒業式や成人式の姿を見てほしかった」「自分が親となってから、子育てのことを聞きたかった」など、親と死別した経験は現在進行形のものとして表出しています。これは、無くなったり、治ったり、誰かが代わってくれるものではなく、自分自身の歩みとして蓄積されていきます。

「グリーフ」は病気ではなく、ごく自然なものであり、誰でも経験をします。多くの人に、作文集に収録された子どもたちの言葉が届くことを祈っています。そして、その言葉1つひとつが、大切な人を亡くす経験をした時に、その人の支えになればと願っています。

〈グリーフ〉
死別や喪失を経験すると、誰しもに「グリーフ」と呼ばれる感情?反応が現れることがあり、子どもたちも例外ではありません。グリーフは、心理的、身体的、社会的な反応であり、身体症状としてあらわれたり、対人関係や社会生活にも影響を与えたりする場合もありますが、決して病気ではなく、一人ひとり固有のものです。

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