2018/05/26 保育士?幼稚園課程

?第1部?4年生 教育実習(幼?小)の事前事後指導 

5月26日土曜日の教育実習の事前事後指導は、『3法令改定(改訂)とこれからの保育?幼児教育Ⅰ』というテーマのもと、和田先生からご講義いただきました。

2018年4月、幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育?保育要領の3法令が改定(改訂)されました。そもそも、なぜこれらの法令が改定(改訂)される必要があったのでしょう。

さかのぼること1984年、中曽根内閣によって、臨教審が設置され、日本の教育のあり方について検討が行われました。ここで、学習して得た知識をたくさん覚えている人間が頭のいい人間と評価されるような教育方法、つまり、知識偏重型の教育が疑問視されました。
そして1996年、文部科学省の中教審での答申で、「変化の激しいこれからの社会では、自分で課題を探し、問題を解決する資質や能力、すなわち“生きる力”が必要」とされました。
この“生きる力”を育てるために、
?問題解決型の調べ学習を中心にした「総合的学習の時間」
?完全週5日制にし、学習時間や内容も減らす「ゆとり教育」
などの教育法が実施されました。
しかし、この教育改革が始まってまもなく
「“ゆとり教育”のせいで、分数の計算ができない学生がいる」
「学生がまともに漢字を書くことができない」
といった批判の声が挙がりました。そして2008年、“ゆとり教育”の見直しが行われたのです。
ゆとり教育が見直されることによって、新しい教育への流れは後退したかと思われた時に、新たな能力概念が生まれます。それは、“キー?コンピテンシー”です。コンピテンシーとは、次世代に必要な能力のことをいい、その言葉に“キー”がつくことによって、特に鍵(澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】)になる能力という意味が加わります。これは、日本の“生きる力”をより洗練させた新たな概念として生まれました。
 キー?コンピテンシーは3つ、
①個人と社会との相互関係能力
(社会?文化的、技術的ツールを相互作用的に活用する能力)
②自己と他者との相互関係能力
(多様な社会グループにおける人間関係形成能力)
③個人の自立性と主体性
(自律的に行動する能力)
に分けられます。個人が思慮深く考え、行動するために、次世代の全ての人にこの3つの能力が必要なのです。
そして、2016年中教審教育部会答申にて、知識か問題解決能力か、どちらかに偏るのではなく、バランスよく獲得した力を、これからの社会を生きぬいてくために必要な“21世紀型能力”とされました。

最近よく耳にします『認知能力』と『非認知能力』について少し説明します。認知能力は、記憶力や思考力などに代表される知性などのことをいいます。非認知能力は、情動?感情に関連する能力のことをいいます。
非認知能力は、
?難しい課題を前にしても諦めず、やり抜こうとする粘り強さ、忍耐力
?「こうやったらどう?」「いいね、じゃあこれは?」などと他者を受け入れながら、相互にコミュニケーションをすることによって協力できる社会性
?万が一失敗しても、「大丈夫」「次は成功する」と気持ちをコントロールできる自信、楽観性
などのことをいいます。

ここで、ベリー幼稚園プログラム(1962~67)というものを紹介します。これは、低所得のアフリカ系米国人の3~4歳の子どもに対し、『質の高い保育』を2年間提供し、そののち40年間を追跡し、研究を行ったプログラムです。『質の高い保育』とは、
?幼稚園の先生は修士号以上の専門家
?子ども6人を1人の先生が担当
?約2.5時間のレッスンを週5日、2年間
?1習慣につき1.5時間の家庭訪問(子育て支援)
といった内容の保育のこととしました。2年間質の高い保育を行った結果、58名のトリートメントグループ(処置群:質の高い保育を提供したグループ)は、65名のコントロールグループ(対照群:質の高い保育を提供していないグループ)と比較して、
①6歳時点でのIQ → 高い
②19歳時点での高校卒業率 → 高い
③27歳時点での持ち家率 → 高い
④40歳時点での所得 → 高い
⑤40歳時点での逮捕率 → 低い
という結果になりました。処置群と対照群は、幼稚園の頃の認知能力は処置群の方が高いものの、小学校入学時で差が小さくなり、8歳頃で差がなくなるそうです。このことから、質の高い保育は、認知能力には短期的な影響であったといえます。しかし、上記①~⑤の結果からは、学歴や年収、雇用など、長期的に大きな影響を与えたことがわかります。質の高い保育が、子ども達の『非認知能力』を育てたのです。

ジェームズ?ヘックマンは、「人的資本の投資は、子どもが小さいうちに行うべき」と述べています。幼児期の質の高い保育への投資は、社会収益率が7~10%なのです。これは、4歳の子どもに投資した100円が、65歳になった時に6,000~30,000円にもなって社会に還元される、ということです。乳幼児期に質の高い保育を提供することは、非認知能力を高めることはもちろん、社会収益率の向上にも繋がります。

1960年代、ウォルター?ミシェルがビング保育園にて行った、『マシュマロテスト』という研究があります。今すぐにマシュマロ1個という報酬をもらうか、もしくは1人きりで20分待ってマシュマロを2個もらうか選び、マシュマロを食べるのを何秒我慢できたか、という実験です。マシュマロを食べることを我慢できた子どもほど、非認知能力が高い傾向にあるといえますが、この実験から子どもの将来について多く予想ができるそうです。

4~5歳のときに待てる秒数が多い子どもほど、
①大学進学適性試験の点数が高い
②青年期の社会的?認知機能の評価が高い
③27歳から32歳にかけて、肥満指数が低く、自尊心が強く、目標を効果的に追求し、欲求不満やストレスにうまく対処できる
といった傾向がみられたそうです。

非認知能力は、脳の育ちとも関係しています。非認知能力は、大脳辺縁系や脳幹部と密接に関係しています。この大脳辺縁系や脳幹部は、人間の進化の早い時期に獲得された部位で、敵から逃げたり、安心な場所を察知したりするために、「怖い」「安心」「好き」などの生命維持の感覚を司っています。これらの原型は5歳頃まで育つため、乳幼児期に応答的で丁寧なかかわり(質の高い保育)を受けていると、これらの部位は健全に育っていきます。

非認知能力と密接な関係がある大脳辺縁系等は、成長と共に、『思考力』『記憶力』『計画性』などの認知面を司る前頭連合野と神経ネットワークで繋がっていきます。つまり、非認知能力が育っていれば、大脳辺縁系から前頭連合野にポジティブな情動的エネルギーが送り込まれるのです。日本保育学会長の汐見稔幸氏の言葉をお借りすると、「認知能力を育てたいのならば、まずは非認知能力を育てる必要がある」ということです。
”21世紀型能力“は、認知能力と非認知能力をバランスよく合わせもった力であり、子どもが生きていける力、自分の願いを諦めずに実現させることのできる力です。現在、世界がこうした能力を育成するような教育法にシフトしはじめており、乳幼児期の保育?幼児教育に投資をスタートしました。日本もこの潮流に合わせ始めています。3法令の改定(改訂)はこのような流れをもって告示?施行されたのです。

現在の地球は、環境問題、貧困?難民?格差、少子化?人口減少など、様々な問題を抱えています。これらの問題は、そう簡単に解決できる問題ではありません。これらの解決することが難しい、解のない問いに解を見いだせる人材の育成のため!

世界の教育は動き始めています。

記事担当者:小松咲永