2022/08/09 教育学科

教育コラム:外国語教育にSDGsの視点を取り入れる工夫 —英語絵本の活用—

初等教育専攻 伊勢恵 准教授(小学校英語科教育)

最近、新聞やテレビのCMでもよく目にするようになったSDGs。SDGs(Sustainable Development Goals)とは、世界中のすべての人々にとってより良い、持続可能な未来を築くための目標です。貧困や不平等、気候変動、環境問題、紛争など私たちが直面している様々な課題を解決するための17の目標と169のターゲットで構成され、2030年までの達成を目指します。各目標はそれぞれ異なる課題に対して設定されていますが、「誰一人取り残さない」世界の実現に向かって相互に関連し合っている包括的なものであり、一つの目標を達成するために他の目標を諦めるという考え方ではありません。そのため、学校教育においては、SDGsの各目標に焦点を絞った知識や技能の一面的な指導に留まらず、批判的に考える力、未来を予測して計画を立てる力、多面的?総合的に考える力、コミュニケーションを行う力、他者と協力する態度など、非認知能力を含め全人的に育成することが必要です1)。

今回は、小学校外国語教育において非認知能力を高めるために活用できる英語絵本を紹介します。絵本は、言葉と絵が一体となってストーリーを伝えるため、絵が内容理解のヒントとなり、自然と子どもに分かりやすい英語のインプットを与えることができるなど言語学習教材としての利点が多く、小学校外国語教育でよく使用されています2)。また、文学作品としての魅力もたくさんあります。例えば、①少ない言葉や絵で人生や命、生きること、喜びや感動を表現し、子どもたちの気持ちを動かすことができる3)、②登場人物や状況を理解しようとしたり、視点を変えて別の登場人物の立場から物語を考えたりしながら読むことで、他者とのつながりを感じ、共感する力が鍛えられる4)などが挙げられます。良い絵本にはしっかりとしたテーマがあるので、今回は、このテーマとして持続可能な社会づくりのために必要な能力?態度に関連するものを選択しました。絵本を通して子どもたちに気づいて欲しいこと、活用例なども含めて提案します。
 

① コミュニケーションを行う力:『Yo! Yes?』(Chris Raschka著)

『Yo! Yes?』(Chris Raschka著

陽気で人なつっこい黒人の男の子と内気で恥ずかしがりやの白人の男 の子が路上で出会い、短いやりとり(Yo! Yes?)を通して友達になるお話です。英語の語数はわずか34語と非常に少ないのですが、二人の男の子の表情や動作から気持ちや性格が十分に伝わってきます。この絵本を通して、言葉にしなくても表情やしぐさから気持ちが汲みとれることや、たった一言で友達ができたり、気持ちが変わることに気づくことができるでしょう。読後には「ジェスチャー?ゲーム」をして、クラスメイトの気持ちを動作や表情から推測し、悲しい?寂しい?困っているような友達がいたら、どんな一言をかけると良いのか皆で考えてみても良いでしょう。

 

② 多様性への気づき:『They All Saw a Cat』(Brendan Wenzel著)

『They All Saw a Cat』(Brendan Wenzel著
子ども、犬、キツネ、金魚、ネズミ、ハチなど全12種類の生き物から見た一匹の猫を、短い英文とダイナミックな絵で表現している絵本です。子どもから見た猫は上目づかいで可愛らしく、金魚から見た猫は金魚鉢越しにぼやけて大きく、ネズミから見た猫は歯や爪が鋭くまるで怖い鬼のよう。生き物の身体的特徴、猫との距離や関係性などによって、同じ猫なのに見え方が全く異なることが描かれています。どうしてこんなふうに見えるのか子どもたちと一緒に考えながら、状況や立場によって同じものでもさまざまな見方や考え方があることに気づくことができるでしょう。読後の活動として、「イマジネーション?ギャップ」ゲームをお勧めします。例えば、「春」から連想するものを3つ挙げ、お友達やALTの先生が連想したものと比べてみましょう。連想するものは人によってさまざまです。連想した理由を尋ねてみてください。面白い発見があるかもしれません。 

③ 批判的に考える力:『Mary Wears What She Wants』(Keith Negley著)

『Mary Wears What She Wants』(Keith Negley著)
世界で最初にズボンをはいた女の子として知られるメアリー?E?ウォーカーの物語。150年前、女の子はドレスを着るものだと誰もが信じていた時代に、メアリーは動きやすく快適なズボンをはいて町に出かけます。すると、皆から非難され大騒ぎになってしまいました。それでも屈せずにズボンをはいて学校に行くと、そこにはズボンをはいた沢山の女の子がいたというお話です。学校にいた女の子たちは窮屈なドレスよりも動きやすいズボンをはきたいと思っていたけれど、行動できなかっただけなのではないでしょうか?メアリーのお父さんの言葉、「人は当たり前だと思っていたことが変わってしまうことが怖いんだよ」が心に響きます。メアリーの勇気ある行動のおかげで、当時の当たり前は当たり前ではなくなり、今では女の子がズボンをはくことはごく普通のことになりました。
 さて、私たちの周りにはどんな当たり前があるのでしょう?もちろん、「悪いことをしたら『ごめんなさい』と謝る」のように、どんなに時代が変わっても残さなくてはならない当たり前は存在します。でも、当たり前だからと何も考えずに全てを受け入れてしまったら、何の発展もありません。子どもたちと一緒に「当たり前」をテーマに、「本当にそうだろうか?」「正しい判断なのだろうか?」と批判的に物事を考えることができる絵本です。また、メアリー?E?ウォーカーは、アメリカ初の女性軍医となり名誉勲章も授与されています。「初めて〇〇した人」について調べ学習をしてもよいでしょう。

今回は、持続可能な社会づくりのために必要となる能力や態度として、コミュニケーション力、多様性、批判的に考える力を高めるために活用できる絵本を紹介しました。3冊のうち、『Yo! Yes?』『They All Saw a Cat』の2冊はCaldecott賞受賞作であり、ストーリーに合った絵の表現力にも高い評価を得ています。見ても読んでも楽しい絵本。英語学習のためだけでなく、絵本の持つメッセージを通して子どもたちの考えを広げていくことも可能な魅力いっぱいの教材です。皆さんも英語の絵本を探してみませんか?

【参考文献】
1) 国立教育政策研究所(2012).学校における持続可能な発展のための教育 (ESD)に関する研究[最終報告書]. https://www.nier.go.jp/kaihatsu/pdf/esd_saishuu.pdf
2) 松本由美 (2017).「小学校英語教育における教材用英語絵本選定基準の試案—絵本リスト作成に向けて—」『玉川大学リベラルアーツ学部研究紀要』第10号, 7-15.
3) 河合隼雄?松居直?柳田邦男(2001).『絵本の力』.岩波書店
4) マリリー?スプレンガー(2022).『感情と社会性を育む学び(SEL) 子どもの、今と将来が変わる』.新評論

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