2018/06/26 教育学科

【教育コラム】「図書館は成長する有機体である」

第3回「教育コラム」新藤透准教授(図書館情報学)

図書館が生きもの?

“A library is a growing organism”

この言葉は「図書館学の父」と言われるインド出身の図書館学者S.R.ランガナータン博士が提唱した「図書館学の五法則」の第5法則にあたります。五法則は1931年に発表されましたが、時代が変わっても図書館員が心がけるべき基本的な考えとして、今日でも世界中の司書が知っている、大変有名なものです。もちろん、本学の図書館司書課程の授業でも必ず取り上げています。

図書館学者の森耕一は、「図書館は成長する有機体である」と訳しました。「有機体」とは「それ自体が生活機能を持つ組織。生物」(『新明解国語辞典』第4版,三省堂書店,p.1314.)という意味です。図書館はいうまでもなく生物ではありません。森は誤って訳してしまったのでしょうか?

原文を確認してみましょう。organismは組織や機関という意味の名詞です。この場合図書館を指すと考えて間違いないでしょう。growingは形容詞で「成長する」という意味です。growing organismとは直訳すれば「成長する組織」となるのですが、growingは「生物が成長する」際に用いられる言葉ですので、無生物である図書館には不適切な表現です。growingという単語を使っていることから、ランガナータン博士は図書館を生物になぞらえていることが窺えますが、それはなぜなのでしょう。

この点について、博士自身は次のように解説しています。
「生物学においては、成長する生き物だけが生存し、成長を止めた生き物は硬直化し、死滅するといいます。図書館は社会の機関として、成長する生き物の持つすべての属性を持ち、新しいものをとり入れ、古いものを捨て去り、大きさを変え、新しい形態をとるのです。(中略)変化こそが生きることの不可欠な原則であり、図書館もまた同様なのです」(竹内悊解説『図書館の歩む道:ランガナタン博士の五法則に学ぶ』日本図書館協会,p.247.)  

ランガナータン博士は図書館を生物になぞらえて、新しいものを積極的に取り入れ、古いものを捨て去り、常に成長していかなくてはならないものだと指摘しました。それを怠れば図書館は死んでしまうとまで言っています。

森の「成長する有機体」という訳は、原文の意図を十分に汲んだ素晴らしい翻訳であるといえるでしょう。

図書館の「常識」?「タブー」を打ち破ろう!

A library is a growing organism. 図書館は成長する有機体である。

この言葉通りに、まさに現在、図書館界は大きく変わろうとしていますが、ではみなさんがイメージする図書館の姿というのはどういったものでしょうか?

ひと昔前の図書館といえば、①おしゃべり禁止で静寂が支配する空間、②飲食厳禁、③難しい本しか置いていない、④カウンターに座っている愛嬌のない司書、などというイメージでしょうか。
しかし最近の図書館はそれら四点の「負のイメージ」を払しょくしようとがんばっています。

みなさんもお気づきかもしれませんが、最近新しく開館した図書館や新築された図書館には、カフェが併設されているところが多くなっています。
カフェではコーヒーも飲めますし、ケーキも食べられます。そこで図書館の本を持ち込んでゆっくりとくつろぐこともできます。図書館が飲食厳禁だというイメージを完全に覆しています。カフェ以外でも、フタが付いたものならば飲み物持ち込みOKの図書館も増えています。

また最近の図書館はイスにもこだわりがあります。例えば、図書館内にふかふかのソファがところどころに置かれているので、新聞や雑誌も楽な姿勢で読むことができます。
これらを設置した図書館の目的は、利用者に館内でゆったりしてもらおうというもので、「滞在型」と呼ばれています。「図書館は勉強するところ」なので、硬い木の机とイスがたくさんあった図書館は最早過去のものなのです。
③の難しい本しか置いていないというのも今は違います。『スラムダンク』?『テニスの王子様』?『ワンピース』などのコミックスも図書館にはあります。中には漫画を10冊ごとに貸している、「セット貸し」をしている市立図書館もあるのです。
最後の④ですが、図書館司書という職業は本ばかり相手にしているわけではありません。むしろ本ではなく、赤ちゃんからお年寄りまで相手にしている「サービス業」です。対人の仕事が実は意外と多いのです。したがって、コミュニケーション能力が最近の司書には問われています。

本学図書館でも、選書ツアーやビブリオバトルなど、図書館主催のイベントが行われています。図書館が静寂な場というのはかなり一面的なものです。新しい時代には新しいカタチの図書館こそがふさわしい。旧来のイメージにとらわれず自由な発想で利用者にサービスをするのが司書の仕事なのです。

ランガナータン博士の言葉がなければ、図書館はいつまでたっても静寂な空間で飲食厳禁、学術書しか所蔵しておらず、しかもつまらない司書しかいない魅力に乏しい空間になっていたことでしょう。

A library is a growing organism.

およそ90年も前にこのことを主張したランガナータンに敬意を払いつつ、さらにどう図書館を「成長」させていくか、それがこれからの私たちの課題です。

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