2023/09/27 福祉心理学科

渡部純夫教授が共著「東日本大震災と箱庭療法 ~こころの糸をつむぐ~」を発行

この本は、2011年3月11日の東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の原発事故を経験し、震災や原発で被災された方々のこころのケアを行うために、長年居住していた飯舘村から相馬市に移り住み、心理相談室グリーンフィルドを新しく立ち上げた臨床心理士の7年(作品制作数40回)の箱庭作品の全貌です。被災した人々をサポートしながらも、自らが被災体験のトラウマを抱えて葛藤している状況の中にあり、様々なトラウマ体験と向き合うことで自分をどう変える事が出来るのか、箱庭の作品を通して綴ったこころの物語です。渡部教授ともう一人の臨床心理士がスーパーヴァイザーの役割を担い、受け止め支え続けました。文中のコメントは、渡部教授が箱庭の物語性に焦点を当ててまとめたものになります。

【渡部純夫教授コメント】
箱庭療法はスイスのカルフ氏がユング心理学を応用しながら発展させた心理療法である。57cm×72cm×7cmの木箱に砂を入れ、さまざまなミニュチアを並べて、自由に作品を制作することが出来るものである。守られた箱庭の空間に、抑えられていた自分のこころの動きが展開することになる。そこでは、形を持たないイメージの世界がミニュチアを通して象徴性を帯びながら姿を現してくる。物語が紡ぎだされていくことになるのである。箱庭療法は、箱庭の持つ一種独特な力とそれを活用しながら母性的に包む援助者との深いつながりの中で、傷ついたこころがゆっくり癒されていく心理療法である。40回の作品を見てどんな物語を浮かび上がらせるかは、一人ひとりの自由である。自分の傷つきやすいこころと日々直面しながら生きている人たちにとって、この本が自分の生きざまの物語の一端を支えてくれたらうれしい。新海誠監督が「すずめの戸締り」で扱った東日本大震災も、一つの物語として描かれている。12年という年月を重ねても、こころに遺された傷は消えるものではない。できることなら、その傷を抱え続けながらも、誰かと繋がり、誰かと明日を夢見ながら、時には過去を振り返りながらでも、生きている意味を見つけ出してくれる事を切に願うものである。