2025/03/22 社会福祉学科

狩野俊介 准教授:英国にて精神医療における意思決定に関する研修視察を行ってきました

精神医療における意思決定の問題

Claire Henderson 教授と研究所前で撮影
Claire Henderson 教授と研究所前で撮影
自分の体調が悪い時,治療を受けることを誰が決定していますか?普段,私たちは自分の意思で治療を受けることを決めていると思います。

精神医療では,精神的な調子が悪化した時に患者さん本人の意思に関係なく家族や自治体などが判断して治療を行う場合があります。これは,患者さんが自分では判断できない状況にあるため,本人の不利益を避けるために必要だという意見もあります。しかし,現在の精神医療において患者さん本人が望む医療を受けられるように可能な限りその意思を尊重するための仕組み?方法が求められています。

英国での研修視察の概要

英国(主にイングランド)では,精神的な病気を抱えている方の調子が悪化した場合にどのような治療やケアを受けたいかを事前に話し合い選択?決定する「Advance Choice Document: ACD(事前選択文書)」について研究と取り組みが進められています。これによって,精神的な病気を抱えている本人の意思に基づく治療ケアを受けられるようになることを目指しています。
イギリス王立精神科医学会?会長 Lade Smith 医師(中央)と野村教授(右)と撮影
イギリス王立精神科医学会?会長 Lade Smith 医師(中央)と野村教授(右)と撮影
今回,このACDの研究と普及を進めているKing’s College Londonの精神医学研究所とロンドン南部地域で精神医療サービスを提供するTrust(専門的な組織機構)へ,新潟医療福祉大学の野村照幸教授と2025年2月16日?24日まで研修視察を行いました。研修視察では,ACDの研究リーダーを務めるClaire Henderson 教授による講義,現地の専門職とのACD研修への参加,そして研究チームメンバーとACDに関するミーティング等を実施しました。これは,日本人として初めてACDの研修視察を行った機会でもありました。
ACDの研究と取り組みには,Royal College of Psychiatrists(イギリス王立精神科医学会)会長のLade Smith 医師が中心的な役割を担っており,イギリス精神医学会全体でACDの普及が進められていました。

研修視察中,強制的な治療の背景に黒人への偏見や移民の問題,さらに経済的?教育的な貧困が関連していることの説明を受けました。まさに“The Personal is Social”という,個人に生じる問題の背景には社会的な課題が存在することを共有でき,ソーシャルワークの視点の澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】性を感じました。

 日本の精神医療においても,意思決定に関する問題が存在します。今後もこうした研究を推進していくとともに,“The Personal is Social”という視点をもとに精神医療における個人の権利擁護とその背景に存在する社会的な課題を理解し,こうした問題に取り組むことができるソーシャルワーカーの養成に努めていきます。

関連リンク