【学習サポート】
教員MESSAGE [社会福祉学科]
「問う」「訊く」からはじまる非正統的学習法
教授 高橋 誠一
私にとって,社会福祉の学習のアドバイスを書くことは,とても難しい。個人的な理由として,私自身は,現在,社会福祉を教えているが,実は社会福祉の正規の教育を受けていないからである。そこでアドバイスというより,経験上の教訓をいくつか書いてみたいと思う。
私は,大学,大学院では経済学を学び,大学に就職してから,福祉の勉強を始めた。幸いだったのは,社会福祉の専門家から直接,福祉の現実を学ぶことができたことだと思う。と言っても,それは大学の中ではなくて,大学の外であった。そして,専門家とは,研究者や職業専門職だけでなく,地域で福祉活動をしている人たちや,当事者自身であった。
当初は,相手にとっては意味不明な質問を一方的によくしていたと思う。というのは,私の関心は「老人医療費の削減のためには,在宅福祉が役に立つ」ことを検証することだったのである。澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】なのは老人医療費の削減という経済問題であり,そもそも在宅福祉について何も知らなかった。大学の教師は現実を少しも知らないとよく言われたが,私の場合は本当にそうだったのである。私としても聞けば聞くほど訳がわからなくなるというありさまだった。
そうこうしているうちに,この窮状を救ってくれる事件が起こった。予定していたケアマネジャーが見つからないという研究上の大事件が起こったのである。日本にケアマネジメントなるものが輸入されたばかりで,ケアマネジャーが何をする者か誰もよくわかっていなかったので,一番若くて,福祉も何も知らない私に白羽の矢が立てられ,ケアマネジャーのまねごとをすることになったのである。
ともかくも,ケアマネジャーとしてケースワークをする中で,意味不明な質問は減り,医療,保健,介護の専門職,行政の担当者,民生委員,家族,本人など,それぞれの状況や考え方を直接学ぶ機会を得たのである。
そこで教訓。無知は勇気に匹敵する。物事を知らないということが,学習の第一歩である。知った振りは学習の妨げであり,先ずは相手の考え方を学ぶことである。
学問とは「問いを学ぶことである」と言う人がいたが,よい質問ができなければよい答えは得られないと思った方がいい。逆に,よい答えが得られたなら,それはよい質問ができたと自信を持つことができる。これが第二の教訓である。くれぐれも相手(この中には教師も含まれることを期待する)が悪いと決めつけないことである。よく「聞く」ことは,よく「訊く」ことでもある。
だんだん,福祉にのめり込んでいくうちに,福祉がわかり始めたというよりも,疑問がどんどん湧いてきた。他の地域や他の国ではどうなっているのかがわかれば,疑問が解消するかもしれないと思い,いろいろなところに出かけ,話を聞いたり,見学させてもらった。随分とお金がかかったので,「不経済学」を専攻しています,と冗談を言ったりしていた。しかし,ここでの教訓は,勉強にお金を惜しむな,ではない。不経済はつらい。と言って,効率的に勉強しようということでもない。
福祉を勉強していて,一つ答えが見つかると,いくつも疑問が生まれる。その中で,気になった疑問を考える。さらに疑問が生まれるのだが,一方で,別の疑問が解けることもある。私にとって福祉の勉強の醍醐味は,この一見すると予想の付かない展開にある。そして,わかってくると相互に関連していることが見えてくる。私の教訓は,福祉は芋づる式に理解することができるということだが,これは正規の福祉教育を受けていない私のやり方だろう。そうであれば,一般的な教訓は自分の勉強スタイルを見出すということである。
残念ながら,皆さんの参考になるような勉強スタイルについて書く力量はない。勉強スタイルというほどではないが,参考にしていただけるようなことを最後に書いておくことにしよう。
「飛んでいる飛行機は古い飛行機」と言われる。これは,安全基準テストに時間がかかり,飛行の認可が下りたときには技術的に古くなっているということだが,教科書も飛行機と変わらない面がある。そこで自分の関心を持ったテーマについて,3ヶ月ぐらいニュースの追っかけをしてみてはどうだろうか。あまり欲張らないで,1つのテーマから始めることだ。テーマが明確になる分それに集中することができる。
かつては新聞の切り抜きはその言葉の通り,ハサミやカッターで切り抜いて,スクラップ帳に保存するしかなかった。今は,インターネットが活用できる。最近は,「Evernote(エバーノート)」というネット上の情報を切り抜き保存できる無料のソフトが使える。グーグルのGmailという無料メールサービスには,「アラート」という機能があり,登録したキーワードが含まれている記事を毎日自動収集して,メールで知らせてくれる。インターネットのサービスを使うことで,簡単に収集し電子スクラップができるのである。
たとえば,「認知症」について追っかけてみると,医学研究や治療開発,行政施策,地域の取り組み,虐待,権利擁護,介護保険,事件など,さまざまな動きをリアルタイムに見ることができ,現状の課題,対応について理解を深めることができる。大学のカリキュラムだけでも大変なのにと思われるかもしれないが,ちょっとプラスアルファーの学習を加えるだけでも,講義の理解が深まると思う。ただし,すぐに答えが見つかると言うことではなくて,新たな疑問を生み出してくれるという意味であることは了解済みと思う。
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