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[教員MESSAGE] 社会福祉学科
時代を振り返り,社会福祉支援について考える
教授 阿部 一彦
現在の課題
現在,百年に一度といわれる世界大不況の影響から抜け出すことの難しさによる不安が蔓延しています。「無縁社会」をテーマにしたNHKの特集番組などをみますと,人と人との絆が失われたときの大変さについて考えさせられます。競争社会が大きな格差をもたらした現実に直面している現在です。そのようなこともあって,近頃は東京タワーがつくられた頃の時代,貧しかったけれども家族や隣近所の助け合いなどを描いた映画などに人々の関心が集まり,地域のつながりがあった昭和のよさが懐かしがられています。
そして,現在,わが国は,これまでの市場原理に基づく「物質的な豊かさ」を求め続けてきた右肩上がりの成長型社会から,人々が互いに支え合うことを通して「心の豊かさ」に大きな価値をおく支え合いの成熟型社会へと変革していくべきであろうといわれています。
社会福祉基礎構造改革へ
さて,歴史を少しだけ溯って考えてみたいと思います。終戦後の混乱状態から抜け出て,高度経済成長期には,わが国も先進諸国の福祉国家主義体制にならって福祉の充実を図ろうとした時代がありました。ただし,当時は措置の時代であり,入所施設整備に重点が置かれました。1970年に,わが国の全人口に占める高齢者の割合が7%を越え,(WHOの定義による)高齢化社会を迎えたのです。しかし,その直後,石油ショックなどを契機に,先進諸国に続いて,わが国でも社会福祉が見直され,行財政改革,そして社会福祉基礎構造改革へと辿ります。
1994年,高齢者人口が14%を占め,高齢社会になった頃,バブル経済がはじけるとともに,わが国では経済の建て直しのために,特にアメリカの新自由主義的あり方を倣いながら,さらに市場原理による競争社会に突入しました。
一方,社会福祉の領域では,社会福祉基礎構造改革をもとに規制緩和がなされ,やはり競争原理的傾向が導入されたことは否めない事実ですが,本人主体の自立支援の考え方が導入されました。
自立支援とケアマネジメント
自立支援は,自己決定,自己選択のもとに自己責任を伴いますが,自己実現をめざす取り組みです。多様な価値観をもとに人々は生活のスタイルを自由に志向できるようになったのです。また,施設から地域生活への移行が澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】視されるようになりました。ただし,自己責任や自己負担が議論されるようになってきたのも事実です。自己責任といわれてもその障害や症状から大きな困難が予想される場合には,権利擁護,そして成年後見制度が必要です。
多様な価値観に基づいて,一人一人が社会生活に目標を持って取り組むことは澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】です。自己決定に基づいて自分自身の望ましい社会生活を鮮明にし,本人と専門職の共同作業をもとに,その望ましい生活を実現するための現状とのギャップについて分析し,そのギャップをもとに解決すべき課題(生活ニーズ)を明確にして,課題解決のための方策に取り組む過程がアセスメントです。自己決定と自己選択をもとに,必要なサービスを選択して組み合わせ,それらを提供する専門領域の人々とともにケア計画を策定し,その計画に基づいて生活を営みます。そして,適宜モニタリングを行って,望ましい社会生活の到達度を確認して,さらに充実した生活を実現していくのが,ご承知のようにケアマネジメントです。その導入に大きな役割を果たした白澤正和先生は,ケアマネジメントを「対象者の社会生活上でのニーズを充足させるため適切な社会資源を結びつける手続きの総体」と定義しています。
ケアマネジメントを通して,ご本人が自分自身の課題解決能力を体現し,生活の主体者であるということを確認していくことが,エンパワメントですね。また,ご本人と同じ目線で共同作業を行うためには,多様な価値観を認め合う必要があります。自分以外の人の価値観を認め合うためには,自己覚知がとても大切になります。
ICFとストレングスモデルについて
ICF(国際生活機能分類)は,使い応えのある大事な道具です。ICFでは生活を,心身機能?構造,活動,参加という3つの次元に分けて理解を進めます。それぞれをマイナス面で捉えると,機能障害,活動制限,参加制約となるわけです。
機能障害には医学的機能訓練が大切なわけですが,機能訓練だけに一生懸命にがんばって,手足の麻痺をなくさなければ目標とする生活を行うことができないと考えるのは「医学モデル」です。それに対して,機能訓練も行いますが,例えば右半身に麻痺が生じた場合に左手を使って料理をしたり,左手用のはさみを使ったりして主婦の役割を果たすと考えるのは,「生活モデル」です。すなわち,社会生活上の役割,例えば主婦の役割を果たすことが「参加」としての目標であれば,それを行うために必要な生活ニーズを「活動」という視点で捉え,「参加」と「活動」を同時に共同作業をもとに決定していくのが,目標指向的アプローチです。
また,ご本人の「弱いところ」だけではなく,「強いところ」にも十分に配慮して取り組んでいくのがストレングスモデルです。
おわりに
ところで,このように話を進めてきますと,私自身,大きな見落としをしてきたことに気づきます。途中から話の展開が,自助と公助について偏ってしまったことです。良き昭和の時代について話題を戻したいと思います。
かつて,わが国には貧しくとも,家族,隣近所,地域の助け合いがあったといわれます。そして,現在,それらが極めて希薄になってきたと指摘されています。そのような助け合いの復活と1990年代半ばから,多くの方々が関心を抱くようになった「ボランティア?マインド」による活動などをしっかりと組み込んで,誰もが暮らしやすい社会を実現することが大切です。
自助と公助,そして,互助についてのシステムをさらに充実させて,人々が互いに支え合うことを通して「心の豊かさ」に大きな価値をおく支え合いの社会が実現することが強く望まれます。そのときに大きな役割を担うのは住民の方々であり,そして社会福祉の専門職です。これからの皆様の活躍が大切です。
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