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VOL.67 APRIL 2010

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教員MESSAGE [福祉心理学科]
福祉心理学を学ぼうとしている人へ

教授 西野美佐子

はじめに

 これまでの人生の中で皆さんはこんな経験をしたことがありませんか?例えば,わからないことに出会って「どうしてこうなるのかな?」と好奇心を掻き立てられたこと,感情のコントロールができないほど気持ちが高ぶって大声をあげたくなったこと,逆にいつ立ち直れるのかと思うほど落ち込んでしまったこと,あるいは,人とのコミュニケーションで誤解された(あるいはした)苦い経験など,など……。
 こうしてみると,人は誰しも大小さまざまな「こころの問題」に出会っていることになりますね。もし,「私は,これまでの人生でこころの危機を経験していない」と言いきれる人がいたとしたら,その人は極めてまれな“人徳”を備えた人か,あなたを取り巻く環境に恵まれていたか,あるいは気づきが鈍いだけの鈍感な人なのではないかと考えてしまいます。いずれにしろ,日頃無意識で気づきにくい“こころの問題”に出会うことが,こころについて学びたいという動機になっていることが少なくありません。ここでは,福祉心理学をこれから学ぶ人たちに知ってほしいと私が考えていることのいくつかを述べてみたいと思います。

こころを測ることのむずかしさ

 人は一人ひとりかけがえのない存在で,人の考えや感じ方は人それぞれ違っていいし,それらは皆等しく尊重されなければなりません。だから人の個人的な人生の出来事の中で展開されるこころの動きをそのままその人の立場で了解することはとても大事なことです。しかし,心理学では,いろいろなこころの事象の関連を研究しようとする場合,そのこころを理解するために,できるだけ客観的にそのこころを捉えようとしてきました。つまり,数量化して捉える試みです。そのために測定する対象を特定し,それを心理学概念として命名し(例えば知能とか△△性格とか)定義することに加えて測定値を示すことで,研究の俎上にあげ議論してきました。こころを測る万能の“物差し”があって,近くのコンビニで売っているわけではありませんので,こころを測る“物差し”はその研究の必要性に応じて作られてきたものです。知能検査や学力検査,あるいは内向性?外向性を測る性格検査や親子関係診断検査,あるいは適性検査などです。ある作業を行わせてその作業結果から性格を測る検査やある質問に対して,例えば「全くあてはまらない,少しあてはまらない,どちらともいえない,ややあてはまる,非常にあてはまる」などの5つの選択肢から一つ選択させて(5段階評定),捉えどころがない「こころに衣服を着せてきた」と言ってもいいでしょう。
 こうして開発された物差しを用いて,こころを対象化して客観的に把握することができるようになりましたが,問題は常に残っています。卑近な例ですが,学力検査で,いくつかの難易度の異なる問題に対して,1問正解したら5点配点するとした場合,本当にそれらの問題はすべて等しいと言い切れるのでしょうか。またそうした点数配分の問題がいくつか集まりそのテスト全体の合計点が60点の人がいたとしたら,その人の学力は,30点の人の2倍に当たると言っていいのでしょうか。数字的にはそうですが,測っているのが心理学的概念ですので,測り間違いが起こりうるということです。
 心理学における物差し(尺度)の問題以外にも,例えばこころは,状況依存性が強いこと,例えば体調やその場の雰囲気や発達段階等によって変化することも少なくありません。しかも,一旦測定され評価された結果は独り歩きし,その人の固定した特性として,常について回る可能性も大なのです。暗示効果や期待効果などとして,他者や自己と向き合う際に影響を及ぼすこともあります。さらに一度開発された物差しは,いつまでも半永久的に使えるとは限らないのです。情報化社会の中で社会文化的刺激が以前に比べて強くなっている今日,人の発達を測る物差しの基準が以前とは異なっていることも多いはずです。そうすると,こころを測る物差しは,何年かに一度は改訂しなければ,適切な物差しとして使えないということです。
 このように,こころを測る物差しは,作るとき,使うとき,その結果を伝えるとき十分な配慮が必要です。つかまえどころのない人のこころを測ること,数量化することの難しさとその結果の使用方法についての留意点をいつも心においてほしいと思います。

福祉と心理

 福祉心理学という名称を学科の名称にして用いたのは,本学が日本で最初でした。その名称を付ける際に,学科設立に携わった先生方は「生活心理学」にしようかと迷ったと聞いたことがあります。福祉心理学ということに決まり,今では全国にこの名の名称の学科も散見しています。福祉を人々がWell being な状態であることとすると,世界保健機関(WHO)の健康の概念定義,「健康とは,完全に,身体,精神,及び社会的によい(安寧な)状態であることを意味し,単に病気でないとか,虚弱でないということではない。」を思い浮かべた方も多いのではないでしょうか。健康とは,病気や虚弱でないというだけではなく,身体的健康?精神的健康?社会的健康のバランスが取れた状態ですが,それに加えて近年ではますます全人的(ホリスティック)なものであるという考え方と,健康の確保において人間の尊厳の確保や生活の質などの追求が澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】との立場が台頭してきています。健康な心は,現に生きている社会の文化経済的状況の中で,様々なものとの関係性の中に存在するということ,人は,自己完結的な存在ではなく,さまざまな環境の中で,影響から受けながら,また人間であるということは環境を創造していく存在でもあることを忘れてはなりません。私が皆さんに期待することは,「人のこころ」に関心を持つ人は,その人のこころの形成に関与しているさまざまな分野の環境にも関心を向け,環境作りの一翼を担えるように,成長してほしいということです。

勉学を楽しく継続するために

1)問題意識を持つこと
 「馬を水際まで連れていくことはできるが,水を飲ませることはできない」のことわざのように,水を飲みたいという欲求がない場合,実際に水際に連れて行っても馬は水を飲んではくれません。「こころの問題」は,人が生きて生活している以上,誰もが体験していることなのですから,自分のこころや生活を見つめると,そこにはいろいろな疑問や課題が埋もれているはずです。
 心理学の学びは,そうした生活の中の素朴な疑問を課題として,これまで追求されてきた先行研究を見直し,理解しあるいは新たな課題や残された課題を見つけ追求していくことです。したがって,あなたたち自身のこころの田畑をまず耕すこと(見つめ直すこと)が,こころについての学びの問題意識を高めるコツとなるでしょう。

2)視覚的に勉強の計画と達成を表示する事
 「継続は力なり」と言いますが,それは日頃の学習にも言えることです。学びは一生涯続くことですが,学校のカリキュラムに従い学習する期間は,“区切り”をつけることが大切です。つまり,何を目的に入学し,いつ卒業するのかの目標を決めておくことです。通信制は,外からのカリキュラムの縛りが柔軟なため,つい目先の仕事や雑事に追われ,レポートを書くことが後回しになりがちです。レポートを書くためには課題に関連した参考書を読む時間も必要です。そしてある程度の関連知識が蓄積されたら,どう書くか目次を立てて,書く内容や順序を決めることが先決です。また,書き終えたら,推敲する時間も必要です。そこで,ついついレポートを書くのが億劫になったのではもともこもありません。ですから,ご自分の部屋の目に見えるところに,受講スケジュールと今年の目標(科目名)を列挙し,その講義に集中する時期の目安を常に確認できるようにしておくことです。そして,目標が達成されたら,つまりレポートの合格通知か,科目試験に合格したら,花丸をつけるとか目に見える形で(ご褒美のつもりで)抹消することです。そうすると,次の目標である新しい科目の課題に集中することができると思います。

おわりに

 物知りであることと,生活にその知識を生かすことができるか,あるいは,自己の人格に反映されるものとなるかは,一筋縄にはいかない難しい問題です。学問としての知と生活上のスキルは統合されることが望ましいわけですが,別物の場合が少なくありません。しかし,日々の生活で活かすように心掛けることで違ってきます。勉学心が旺盛な皆さんには,ぜひとも知?技を統合した形で身につけてほしいと願っています。そのために,日頃経験している自分や他人のこころの移ろいや有り様に関心を抱き,思いを巡らしながら生活し,心理学の学びを深めてほしいと願っています。

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