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VOL.38 SEPTEMBER 2006

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[関連施設紹介] 口腔ケア室の取組み3─チームケア

医療法人社団 東北福祉会 介護老人保健施設 せんだんの丘
事務長 大森 俊也言語聴覚士 熊谷 文女歯科衛生士 若生 利津子
歯科衛生士 小野 美由紀管理栄養士 佐藤 葉子

 高齢者の口腔内環境は,残存歯や義歯の状態と咀嚼回数,唾液の分泌,嚥下のタイミングも誰しもが同じ状況にあるわけではありません。また,疾病により著しく栄養の摂取状態に差が出ることや誤嚥により呼吸器疾患なども引き起こすこともあります。
 食事は,味覚(味),触覚(舌触りや手触り),臭覚(香り),視覚(見た目)や聴覚(調理の音),場所や時間,趣向や仲間と食べるなど,感性を大切にしながら「楽しく」したいものです。せんだんの丘では,調理委託先と調整し,軟菜食をさらに発展させたソフト食を導入しました。

◆ソフト食の導入

大森 きざみ食から軟菜,そしてソフト食への経過を振り返ってみたいのですが。

若生 そうですね。経管食から経口移行への段階に入るために必要な食事形態として提案してきたので,やっとという思いですね。

熊谷 食材の見た目が,きちんとした形状なので堅そうに見えましたが,舌圧での咀嚼が可能で柔らかさは,ムースと同じで驚きました。

小野 サンプルを利用者のみなさんにお見せしたら「きれい」「食べてもいいの?」と声をかけられました。見た目は,食欲につながるのでみなさんの評価は,上々だったと思います。

熊谷 私もサンプルを持って行ったら,同じ声が返ってきました。何といっても色が鮮やかで,これまでのイメージをくつがえすものでした。

佐藤 試食会の際に介助職のみなさんから,食材の質感がこれまでのペースト食とはちがっているし,見るからに「食べることの楽しみ」も「介助する楽しみもある」との声も聴くことができたのは,とても嬉しかったです。

大森 現在,何名の方が対象でしょうか?

若生 どうしても経管から食事摂取する方が13名,これまでの軟菜食35名,その中でソフト食が望ましい方が8名いらっしゃいます。これまでの常食のきざみ食や軟菜食は,どちらかというと嚥下の困難な方というより,咀嚼力の低下した人向きでした。流動食にトロミをつけるという工夫もしてきましたが,ソフト食では,嚥下の状況に応じて「あん」をかけるなどして喉越しも個々に調節できるというのがいいですね。

小野 ペースト食では,残渣感が強かったのですが,ソフト食では,改善されていますね。ペースト食は,料理の香りはしても,食材の個別化が何とも言えず,栄養摂取のための食べ物という感じでしたね。

佐藤 ペースト食と異なる点は,量がコンパクトになっていることです。せんだんの丘では,ソフト食の食材として市販されているものと手作りで食品毎に一度ミキサーしてトロミをつけたものを併用しています。カロリーは,1日約1,200キロカロリーになっています。食事には,すべて共通することですが,ソフト食には,食材自体に粘度があることから,食品を取り扱う際には,衛生面に十分気をつけなければなりません。

大森 料理は,お膳にのって出されてきますが,安心して食することができる,隠れた配慮に支えられていることを忘れてはいけないですね。そこに盛りつけや色彩によって食欲が引き出されてくる。そういえば,試食会に使用した皿の大きさを指摘した職員がいたのには,驚きました。いつもの瀬戸皿と小鉢の組み合わせでなく,1枚の皿に盛り合わせる方法も色鮮やかに花が咲いたようでしたね。

◆食事を通じて思うこと

 栄養摂取と口腔内環境,そして口腔機能へと「食」をめぐるケアの展開についてお話を続けてきました。
 今回ご紹介したソフト食については,すでに多くの施設で導入されるようになってきています。「食」を通じて思うことは,「食」を楽しむ時間にすることができることであり,「食」に集う理由をもっと明確にする必要があるようにも思います。「食」の時間が時計仕掛けで作り出されるのではなく,「食事の時間」として「楽しく味わう」という,そういう時間を作ることがケアの大切な側面であるとことは,言うまでもありません。
 ソフト食を摂取される方は,嚥下?咀嚼力ともに低下し,心身機能の低下した方々ですが,外出の機会に食事を携行し,これまでよりも活動範囲を拡大していくことができる条件が整ったように思います。

◆今後について

 施設長(医師)は,検食日誌に欠かすことなく記載をくださり,かつ細やかにさまざまなご指導をくださるところですが,ソフト食の開始にあたっても医学的所見のもとに口腔ケアスタッフをリードしていただいているところです。また,「(ソフト食の色彩が豊富であることから)一般献立が見劣りするなぁ」など利用者サイドからの率直なご意見を頂戴しており,今後も調理委託先と検討を重ねてまいります。
 利用者の皆様,ご家族,職員からもさまざまなご意見を頂戴し,さらなる口腔ケアスタッフのチームワークに期待するところです。

 次回は,嚥下食の導入による効果を経過検証をいたします。

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