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VOL.37 AUGUST 2006

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[社会心理学] 社会心理学を学習するにあたって

講師
吉田 綾乃

◆社会心理学の特徴

 殺人事件など大きな社会的事件がワイドショーを騒がせない日はありません。何か社会的事件が生じた時,私たちは,その事件にかかわった人たちがどのような性格なのか,またどのような生育暦や家庭環境のもとで育ったのかを想像することが多いと思います。つまり,行動の原因が個人のパーソナリティや動機にあると考えるわけです。しかしながら,人の行動は,個人の内面的な特徴によってのみ決まるわけではありません。社会心理学では,何か行動が起こった場合,その場の“状況”に着目します。状況が違えば,同じ人間でも違う行動を取ったかもしれないと考えるのか,社会心理学の考え方の特徴です。
 たとえば,先日ドイツワールドカップが開催されましたが,その際,ヨーロッパ各国で勝敗に絡んでけが人や死者が出たことが報道されました。普段の生活の中では必ずしも暴力的ではない人たちが,一旦,集団を形成し,集団の一部に組み込まれると,ひとりの時とはまったく異なる行動をするようになることを端的に現した事例だと思います。4年に1度のワールドカップ,国を背負って皆で応援,相手国のサポーターからの挑発(?)……といった社会的状況が,個人の行動に大きな影響を与えるのです。
 人は,社会的な状況がもつ影響力に気がつきにくいという特徴をもつています。私たちは,誰かが何か行動を起こした時,それが他者の命令によって引き起こされていたとしても,そこには本人の性格が現れていると判断し,なかなかその場の状況が,行動を引き起こしたと考えることができません。たとえば,予想外かもしれませんが,人を助けるという援助行動に関する研究では,援助行動の起こりやすさは,「やさしさ」や「思いやり」といった性格特徴をもっているかどうかよりも,「その時,周囲の人がどのように行動しているか」という状況によって決まることがわかっています。皆さんも,社会心理学を学ぶことによって,今まで気がつかなかった“状況の力”の大きさに驚かれることと思います。

◆社会心理学が目指すもの

 レポート課題集にも紹介されていますが,社会心理学は「人は,なぜ,その場面でそのように行動したり,判断したりするのか」を解明する学問です。行動のメカニズムを解明,予測し,さらにはコントロールすることを目指しています。行動の解明?予測?コントロールという3点の中で,社会心理学が最も重視していることは,「なぜかを説明すること(解明)」です。
 たとえば,問題行動の場合,どのような状況でどのようなタイプの人が問題行動を起こすのかがわかれば,将来,いつ問題行動が起きるのか予測することができるようになります。また,原因が特定できるということは,原因となる要因を排除すれば,問題行動が起きないように行動をコントロールすることも可能となります。世間では相変わらず振り込め詐欺が多発していますが,「なぜ騙されるのか」がわかれば,騙されないように対処することが可能になる,というわけです。社会心理学は,非常に“使える”心理学であると言えるかもしれません。

◆レポートについて

 レポート課題では,対人認知と態度形成?態度変容の特徴とともに“各自のこれまでの経験や具体的事例などを挙げながら論じる”ことを求めています。レポートを作成する際には,それぞれの特徴に関する記述と具体例のバランスを考えてまとめてください。
 レポートを作成する際,これまでに自分が学んだことは,もらさずすべて書きたい!と思う気持ちは非常によくわかります。しかしながら,内容をまとめることに重点を置きすぎており,評価する側から見ると,まるで教科書の要約を読まされているような印象を抱くレポートがあります。このようなレポートの場合,書き手の理解度を評価することは非常に難しくなります。その一方で,ご自身の経験や意見のみをまとめる方もいらっしゃいます。このような場合も理解度を評価することは困難です。
 通信教育の場合は,残念ながら,皆さんが一生懸命に勉強し,レポートをまとめている姿を直接見ることはできません。文字数の限られたレポートの中で,自分自身の“理解度”をアピールすることは非常に難しいことだと思いますが,できるだけ“自分の言葉で自分の考えをまとめる”ことを心がけてください。そして,欲を言えば,自分自身が経験した事象について,理論に基づいて自分なりの解釈や考察を試みてください。このような記述がある場合には,特徴を十分に理解し,また社会心理学の知識を自分のものにしていると判断することができます。
 誰かを○○な人だなぁ,と判断したことがない人はいないと思います。また,生まれてから今まですべての事柄に対して一貫した態度を持ち続けている人もまたいないでしょう。対人認知や態度形成?態度変容は,私たちが日々の生活の中で体験していることです。自分自身の経験を客観的に見つめ,社会心理学の理論を使って,上手に解釈,説明をしてみてください。

◆最後に

 私は社会心理学を学ぶ楽しさは,学んだ直後から自分の生活の質を改善できることにあると思っています。社会心理学の研究テーマは日常生活に密接に関連していますから,学んだことをすぐに実生活に生かすことができます。教科書にはいろいろな概念,理論やモデルが出てきますが,それらは難しい言葉の遊びではなく,現象を客観的に記述し,説明を試みた研究者達の努力の結晶(?)でもあります。ぜひ,さまざまな研究知見を楽しみながら,自分自身の行動を振り返ってみてください。

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