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VOL.28 JUNE 2005

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【学習サポート】

[教員MESSAGE]
スクーリングに向けてがんばりましょう

教授
寺下 明

◆1 試験と学習

 つい最近,ある記事を読んで驚きました。それは,今年のフランスのバカロレア(高校卒業試験)の試験問題です。フランスの高校生の必修科目である「哲学」の次のような論述式問題です。

  • 真実はかならず証明されうるか
  • 人間は統治を必要とするか
  • 他者を理解するとはどういうことか

 日本の大学入試「ペリーが浦賀沖にやってきたとき黒船は何隻であったか」式の問題と比べると衝撃さえ感じてしまいます。
 論文の採点には,(1)言葉の定義,(2)引用すべき哲学概念,(3)考える論拠,(4)構成力,(5)論理展開の整合性などの客観的判断基準に加えて,主観的側面を排除できないとあります。やはり,採点する側にしてみれば大変なのでしょう。
 学生にとっては,こうした試験準備が大学での学習と連続性をもつものとなり,このことを通して自分の関心や適性を知り,進路選択もより自覚的なものになるのでしょう。もちろん,試験の性格,受験者の数,受験年齢など条件のちがいはありますが,試験に向けて準備する学習の質のちがいを考えさせられます。

◆2 学修の根は苦く実は甘い

 シェークスピアの時代から「恋人と別れるときは,重い本をさげて学校へ行くときのように悲しい」(『ロミオとジュリエット』)と言われてきたように,昔から学校や勉強は私たちには重荷であることには代わりないようです。それでも,飽きもせず教育があり,学校があり,通信教育もあり続けるのは,刻苦勉励の先に「学修の根は苦く,実は甘い」という成果がもたらされるからなのでしょうか。
 大学通信教育は,「誰でも入れてカンタンに卒業できるのか」というと,「誰でも入れる」というのは正しいのですが,「カンタンに卒業できる」は間違いのようです。実は,大学通信教育の卒業率は厳しく,入ってみたはいいけど根気が続かなくて挫折する人もいるのが現実です。通信教育で資格をとったり,卒業したりするには,強い意志が必要とはよく言われるところです。この意志とは,レポート作成と試験にむけてコツコツと日常の学習を積み重ねていくことだと思います。

◆3 変わる大学通信教育

 ところが,近年多くの大学がメディアによる授業方式を取り入れたことと,インターネットが普及したことで大きく状況は変わりました。メディア授業で学習内容が理解しやすくなる一方,それまで孤立していた学生が,ホームページや掲示板で活発に情報交換を始め,いまでは,単位のとり方や試験の内容についてまで細かい情報を得られるようになりました。多少意志が弱くても,お互い励ましあう仲間がいて,ノウハウを知っていれば,大学通信教育はそんなに困難なものではなくなってきたのです。
 通信教育は今後さまざまな変化が予想されます。社会人に開かれた大学にむけて改革が進んでいる今,インターネットの普及に伴いメディアを利用した授業の可能性が大きくスクーリング(teaching face to face)の多くが遠隔授業(teaching at a distance)で可能になってきているからです。もちろん,授業の内容によってはそうならないものもあるでしょうが,少しずつ自宅で学修できる可能性も出てきました。

◆4 されどスクーリング

 しかし,そうはいっても大学通信教育から面接授業(スクーリング)がなくなるわけではありません。卒業生に通信教育の一番の思い出は何かとたずねると,スクーリングだと答えます。授業に出席することで知的刺激を味わったり,教科書を超える教員のオリジナルな考えに触れることができます。学友や先輩に相談したりするのもスクーリングに出席した機会です。負担ではあるが,面接授業への期待や満足度は予想以上に高いのです。
 スクーリングは,印刷教材による自学自習の不十分な点を補い,学生の学習上の不安を克服するきわめて大きな役割を担っているといえます。ある意味,通信教育でありながら,だからこそ,その教育の質の維持を面接授業に依存してきたのかもしれません。多くの学生が,距離や時間といったさまざまな障壁を越えて,スケーリングに出席していることも事実です。受講生の皆さんは,決して単位がとりやすい面白おかしい授業を求めているわけではありません。知的好奇心が湧き,考えさせられる授業,考えて問題を解決する喜びを求めているのだと思います。

◆5 「きく」ことの意味

 哲学者の久野収は,日本語には「きく」(聞く,聴く)にかかわる言葉が多いのに,「話す」にかかわる語が少ないということを指摘しています。「きく」には,ききとる,ききすます,ききとめる,ききおぼえる,ききほれる,ききくらべる,ききながす,ききわける,ききだす,ききただす,ききそこなう,ききもらす,等などがあるのに対して,「話す」の方には,話し出す,話しあう,話し込む,等いくつかの区別があるだけだというのです。
 私たちは,古くから「きく」ことに格別な価値をおいてきたわけです。そのうえで,久野収は「人間の言語においては,実は,きくほうが大事なんです。今まで話すほうはいかにも大事なようにいわれてきているが,それは間違いだ」ということを主張しています。久野氏の説明が十分であるかは別として,私たちは,「話す」ということより「きく」ということのほうが人間関係において大切であることを経験上知っているのではないでしょうか。
 スクーリングでの授業は,教授?教授者中心の授業形態(講義)が主であり,「上手に書く」,「うまく話す」ことにアクセントが置かれています。考えを言葉にして相手に伝える訓練を厳しく行います。それだけに,ことばの力というとき,「きく」を発想する人は少ないと思います。授業では教授者が学説や自分の考えを説ききかせ,学習者はそれをまず,「きく」ことは,これまた澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】です。

◆6 授業のデザイン

 どんな授業も楽しく身を入れて聴きたいものです。興味,関心のもてる内容がわかりやすいものであってほしいです。そのためには,教員によって授業がどのようにデザインされているのかを知っておくのも理解力を高めるのに役立つのではないでしょうか。
 私たち教員はまず,担当する科目の全体像(到達目標,おおよその内容,授業の方法,評価の方法など)を設計します。その際,次のような視点を考慮にいれます。

  • 授業科目が大学のカリキュラム全体のなかでどのような位置づけを与えられ,何を期待されているか。
  • その学問分野や主題において,何が本質的なポイントであるか,何を伝えたいか。
  • 全授業終了時点で学生はどのようなスキルを獲得すべきか。

 そして,一回一回の授業をどのように始めて,流れをつくり,何を結論として示して終わるか,学生はその授業ではどのような仕方で授業に参加するか,試験はどうするか,といったことを考えます。
 授業の目標は,ある分野の澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】な定理をどれだけ教授するかということではなく,学生の知的能力の向上にあります。ですから,「この授業を受け終わった学生は,何ができるようになっているのか」という問いに答える形で目標が設定され,それを達成できたかどうかが試験されます。
 ここで大切なのは,「講義を聴く」のは,学生がスクーリングで行う学習活動の一部だということです。教室の中で授業中に行う活動ですら,講義を聴くということだけにとどまりません。質問カードを書く,例題を解く,ディスカッションをする……。さらには,教室の外でも学習活動はつづいているのです。図書館に行く,論文を書く,教科書を予習する……。授業は,時間的にも空間的にも教室の外にまで広がっています。教員が授業をデザインするということは,教室内外での学生の活動を全体としてデザインしているのです。

◆7 授業の展開

 いよいよ実際の授業ですが,私の場合,一回分の授業は80分ですから,導入部10分,展開部65分,エンディング5分というふうに分けて,それぞれのパートの構成を練ります。導入部分で主題を示し,展開部で主題を掘り下げて,エンディングで主題を確認するようにしています。

(1) 導入部は刺激的に

  • 今回の主題は何か,なぜそれが必要なのか,それを学ぶことで何が習得できるかを最初に明らかにしておくと,お互いにモチベーションが高まります。
  • 主題にうまくつながるような問題提起や例示を行います。

(2) 展開部はスリリングに

  • 教科書に書いてあることをそのまま繰り返すだけなら平板な授業になります。
  • できるだけ教科書や参考書を活用しながらも,一定のスタンスをとって,客観的に評価する立場をとると授業が立体的になり,学生も意見をもちやすくなります。
  • 仮説を検証したり,「なぜ○○は△△△なのか」という問いを立て,その理由を探る問題解決型の展開によって,学生に参加する機会をもうけます。
  • メリハリをつけるために,対立する学説をとりあげ,それぞれの是非を学生に評価させる方法もあります。
  • 教科書に載っていない最新の情報や知識を紹介して,授業で扱う主題が現実社会といかに密接に結びついているかを実感させるようにします。
  • ときには自分が取り組んでいる最新の研究成果の一部を紹介することもあります。

(3) エンディングは印象的に

  • はじめに示した主題に対する結論を明らかにします。
  • ひとまとまりの話がきちんと終結したのだという印象を与えることが大切です。
  • 授業終了時に,次回の内容を紹介し,今回の授業とのつながりを確認します。

 私は,以上のことがらを考慮しながら長年授業をしているのですが,実はうまくいったためしがありません。授業を演出するのは何年たっても難しいものです。それでも挫けずに,学生のニーズに対応した「対話」のある授業をめざして努力しています。

◆8 試験と成績評価

 最後に成績についてです。およそ成績評価と単位認定は,通教生生活でのフラストレーションの最も大きな要因のひとつだと思います。
 レポート添削指導は,成績評価のための課題ではなく,学習を促すためのものです。もちろん評価はされますが,フィードバックを行うこと自体が澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】とされています。
 成績をつけるということは,自由な探究という学問の精神に反するという考えもあるでしょう。しかし,大学の成績評価基準は,現実に試験にもとづいて成績評価が行われています。多元的であることが推奨されていますが,成績評価の基本は,(1)一貫した原則にもとづいていること,(2)明確かつ公正であること,(3)学生を励ますものであることです。
 試験は,厳しくして,学生の意欲をそいだり,ドロップアウトをさせるためのものではありません。学生が,授業で学んだことを整理したり,自分の理解度を確認するための機会という教育機能をもっていることも忘れてはいけないことです。

◆9 通信教育事務室は縁の下の力持ち

 通信教育の魅力はいろいろあると思います。しかし,お互いに励ましあい,学びあうのが大学通信教育のすばらしさです。そんな通教生にとって通信教育事務室はまさに,大学そのもの「母校」です。事務室では濃い目のスタッフが,熱く皆さんの学習を支援しています。がんばってください。

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