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VOL.10 JUNE 2003

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痴呆性高齢者ケア??グループホームで立ち直る人々
中公新書

 「痴呆性高齢者への対処」や「グループホーム」のことを考えるうえで大変参考になる本です。著者はNHKのディレクターの方で,とてもわかりやすい文体でまとめられています。
 述べられていることを要約して紹介します。
 (1) 5?10人程度の高齢者が,2?3人のケアスタッフとともに,大きな普通の家のような建物のなかで普通の生活をする「グループホーム」は,従来の病院や特別養護老人ホームより痴呆性高齢者のケアに有効である。
 (2) その理由は,(1)食事の準備や掃除,選択など自分でできるところは利用者自身が行う,それがリハビリテーションになるとともに,日常生活のなかで役割をもってもらうことで居心地のよい場所になる,(2)10人程度の集団だと,痴呆性高齢者もお互いを識別でき,不安感がなくなる。また,高齢者同士の人間関係がケアに有効である,(3)居室は個室になっていることが多く,「もの盗られ」妄想なども起こりにくく,高齢者の不安や混乱を引き起こしにくい,などがあげられる。
 (3) 痴呆性高齢者が精神的に安定し病気の進行を遅らせる居場所をつくれば,一般病院や療養型病床群とよばれる病院に入院するより社会的なコストも安いのではないか。とくに長く入院すると診療報酬が減るために転院させられることが多いが,転院は痴呆の高齢者に多大な苦痛を引き起こし,悪影響である。また,病院や施設では薬の不適切な使用も多い。建物を設計する際の配慮も必要である。さまざまな視点から有効なケアと社会的な支援のしくみを科学的に考えていくべきではないか。
 (4) 「痴呆」という呼び方は変えた方がよいのではないか。「脳器質性」の「認知障害」などのように原因と結果を明示する名称の方がよいのではないか。
 私がとくに同感したのは,「ごく普通のケアワーカーたち」によって運営されているグループホームだから取材対象としてとりあげた(p.17)という著者の感覚です。「いわゆる『教祖さまタイプ』の指導者が中心になっているところだと,『あの人がいるからできるのであって,他の施設では無理』という話にすぐなってしまう」という指摘に共感しました。
 そんな普通のケアワーカーたちが「帰りたい」と徘徊する高齢者とどう接しているか(p.43),生活の中でひとりひとりの高齢者が何ができて何ができないのかを観察し見極め(アセスメント),ワーカー同士でよく情報交換をしている(p.126)という記述は参考になりました。
 また,福祉より医療にお金が流れるようになっている社会システムの実際も7?9章において具体的に書かれています。社会的な総コストは病院が最もかかっている(しかし医療保険制度のためにそのことが見えにくくされている)??このことが印象に残りました。
 そして,ひとりひとりへの有効なケアのあり方を考えることと,社会的な支援のしくみやシステムのあり方を考えることはつながっていることもあらためて納得させられました。

(B)

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