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[心理学キーワード] 急性ストレス反応
助教授
佐々木 千鶴子
非常に過酷な状態におかれると,私たちの身心にはさまざまなストレス反応が現れます。いくつかの症状を併発し,それが約1カ月以上続く場合PTSD(心的外傷後ストレス障害:Post Traumatic Stress Disorder)と診断されることがあります。今回は,知名度の高いPTSDではなく,急性ストレス反応について簡単に説明します。PTSDは誰もが発症するわけではありませんが,急性ストレス反応は誰にでも起こります。
たとえば,惨状の目撃は,マスコミを通じた映像に触れるだけでも私たちの気分を重くします。尋常ならざる場面は私たちの身体に「緊急事態発生!」と信号を発します。すると交感神経系が活発に動きだし,不眠,イライラ,食欲不振,過食,酒量の増加,感覚の麻痺など,さまざまな変化が起こります。
そうした体験の後,その直後からどう対処するか,これが澳门赌场app_老挝黄金赌场-【唯一授权牌照】な課題となります。しかし,そのときはすでにさまざまなストレス反応が起こっているわけです。出来事の体験中から急性ストレス反応が起こり,私たちはその影響下におかれます。この点を十分配慮して,課題に取り組まなくてはなりません。その配慮に欠けると判断を誤り,さまざまな誤解やトラブルの種がまかれることになります。
それでは急性ストレス障害を参考に急性ストレス反応の特徴を見てみましょう。アメリカ精神医学会が作成した『精神障害の診断基準マニュアル(DSM- IV )』を元に簡単にまとめてみると,急性ストレス障害(Acute Stress Disorder)は「重篤な惨事への暴露によって,解離症状,再体験症状,回避症状,覚醒亢進など諸症状によって,社会適応が困難な状態が2日以上最大4週間持続したもの」と定義されます。中でも誰にでも起こりやすい急性ストレス反応として覚醒亢進があげられます。具体的には,睡眠障害(寝付きが悪くなる,熟睡感がない,悪夢を見る,夜中に目が醒める,早朝の目が醒めるなど),易刺激性(いつもなら気にかけない程度のことでイライラする,ちょっとしたことで怒りっぽくなるなど),集中困難(何かを考えてもまとまりがつかなくなる,考えが堂々まわりになる,持続的に作業に取り組めないなど),過度の警戒心(過剰に用心深くなるなど),過剰な驚愕反応(ちょっとした物音にも敏感に極端に驚いてしまうなど),運動性不安(そわそわして落ち着かずつい動きまわってしまうなど)といった症状があげられます。
こうした誰にでも起こり得るストレス反応が,私たちの視野を狭め,課題解決能力を低下させるのは明らかでしょう。そんなときには,一呼吸おきましょう。「急がば回れ」というわけです。緊急事態に際し,ともすると根性論がかっこよく見られ,問題が間違った方向へと動いていくことがあります。無自覚なままに放置すると思わぬ悪さをするのが「急性ストレス反応」です。誰にでも起こるものだからこそ,あなどれないのです。